教育からビジネスまで「ゲーム化」が進む理由
勉強は10分で飽きるのにゲームだと6時間くらいやり続けてしまうし、徳川将軍は全然覚えられないのにポケモン151匹は完璧に覚えてしまう。
ゲームはすごい。
教育にボードゲームを持ちこんだイベントが開かれたり、老夫婦が今も『ポケモンGO』を片手に散歩を楽しんでいるのを見かける。ビジネスや教育でも「ゲーム性」はひとつのキーワードだ
なぜ、ゲームは人を「沼」に誘い込むのか、その極意が書かれた危険な本に出会ってしまった。元任天堂・ゲームディレクター玉樹真一郎さんの『「ついやってしまう」体験のつくりかた』。
ゲームをやるのは「おもしろいから」ではない
なぜ、子どもは「ポケモン」や「スプラトゥーン」が好きなのか。その理由にのっけから驚いた。多くの人が「面白いからでは?」と思ったのではないか。それが違うという。
正解は「ついやってしまう」から遊ぶ、なのだ。
これがどういうことかを著者は『スーパーマリオ』を例に解説している。かのゲームのスタート画面を思い出して欲しい。このゲームをやったことのあるほとんどの人は説明書も読まずに遊ぶことができただろう。しかし、なぜ「右に進めばよい」とプレイヤーは学ぶのか。
その理由が、このスタート画面の設計の中に隠されている。
それは、
右へ進むとクリボーが出てくることだ。
もう少し丁寧に言うと、「右へ行く」という挑戦に対して、敵(クリボー)が出てくるというデザインが、プレイヤーがついやってしまったことへの「ごほうび」として働き、「なるほど、このゲームは右に進むゲームなのか」と分かるように設計されている。
著者はゲームの正体について、こう言いきる。
「ゲームはいい塩梅でプレイヤーを褒めたりけなしたりしているだけ」
あらゆるものが「ゲーム化」する時代
この本の応用範囲はゲームにとどまらない。
子どもにどうやって勉強させるか
後輩にどうやって“自分で考えて”仕事をしてもらうか
お客さんにどうやって商品を手に取ってもらうか
3日坊主の自分にどうやって日記を毎日書かせるか
エンタメ、教育、ビジネス、コミュニケーション、あらゆる場面で、なぜ、ゲームが有効なのか。そのヒントとなる一行を見つけた。
ゲームは生活必需品ではない、だからこそ驚きが必要だ
なるほどたしかに、生活に欠かせないモノほどどんどん効率化されて限りなくタダに近づいている。amazonやメルカリには「中古1円」があふれ、ブランドものの服やバッグでさえ「シェア」でよくなっている。
結果、人々が膨大な時間やお金おつぎ込むのは「生活に必要ではないモノ」ばかり。いま世界中からお金を集めている GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に私たちの生活は大きく依存しているけど、その4社が明日突如としても、不便だが生きてはいける。
今後、労働者のほとんどは「生活に必需ではないモノ・コト」を生み出すことを仕事にするようになる。だからこそ、ついやってみたくなり、驚いてもらう技術が求められている。
この構図は飲食業でさえ例外ではない。おなかを満たすためには300円で牛丼が食べられる世界で、人が3万円の寿司を食べるのは、「腹がへったから」食べるのではなく、食べたことがないような美味に驚くために大枚をはたいているの。
参考文献がスゴい
“つい”やってしまう仕組み、ひとつひとつのテクニックはぜひ本を手に取ってみてほしいのだが、それが凝縮されているのだが参考文献だ。
そこでは「バイオハザード」や「ゼルダの伝説」などのゲームの名作と並び、デザイン、心理学、脳科学、文化人類学、神話学などの面白そうな本がズラリと並ぶ。ゲームの背後にある「知の宇宙」がぬるりと顔を覗かせる。これ自体が、つい奥へと進みたくなる「極上のブックガイド」となっている。
もっと驚き、驚かせるために、今日もゲームのスイッチを入れよう。
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