001: 市場占有率1位の商品パッケージを変えたら300日後、株式上場してしまった。
企業ブランド:海底撈の場合①
「海底撈」という企業、中国では知らない人はいないと言われ続けている中国象徴ブランドのひとつ。
中国火鍋業界を席巻する圧倒的なリーディングカンパニー。
2022年現在でも中国における外食チェーン年商1位のみならずアジア全土でも1位に君臨している。
現地大人気の「マクドナルド」や「KFC」を圧倒してるんだから。
日本国内店舗群も全店連日満員の大人気。
まさにアジア全土で中国火鍋=海底撈の構図。
しかも全店舗が直営である。FC店舗は無い。
ちなみにオーナー夫妻も、長年世界のビリオネアトップ500に君臨し続けている。
2022年9月時点においても。
序章
弊社で既存商品全品リニューアルを受注した2014年。
当時はブランド大躍進のパズルを組立てるピースが、まだまだ揃っていなかったと思う。
当時【なぜ弊社小職に白羽の矢を立てたのか】【それがどう機能したのか】振り返れば振り返るほど、今だから理解できる要因が垣間見えてしまう。
今回執筆するのは、
①海底撈の全商品パッケージをリニューアルした結果
②受注した背景
③受注後の進め方の記録1
【どのタイミング】で【どのような背景】の元、【どのようなミッション】を【どのような考え方】で【どうしたのか】が齎した末の【どうなったのか】までの赤裸々な記録。
2014年当時のデザイン業務を核とした再現レポートなので、今日現場で頑張ってらっしゃる方々にとっては、ダイレクトな真水とはならないかもしれない。
しかし、当時の知見には、現在にも未来にもヒントとなり得るパーツとピース群が垣間見えてしまう。
振り返れば振り返るほどに。
安っぽいノウハウを語る気は更々無い。
おそらく皆様が欲しいのは、未来のノウハウだと思うが、そんなもの存在しない。
だって、誰も経験していない未来だもの。
デザインビジネスの舞台裏を公開可能な限り再現します。
情報の読み取り方は、千差万別。案件も状況も千差万別。
お一人お一人が、「何かしらのヒントを見つけられるレポート」と成り得たならば幸甚に存じます。
第1章
海底撈商品をリニュアールした結果
海底撈への影響
2014年2月下旬に海底撈と弊社の間で正式契約を交わし、約2ヶ月という信じられないタイトすぎるリニューアル作業期間を経て、(16品種46SKU)を順次再リリース。
デザインはラフから入稿まですべて小職が行った。
社員たちのスキルでは危険すぎたので。
結果、2014年度の加工食品部門である「颐海公司」の売上が昨対倍増してしまいシェアを席巻、翌2015年に「颐海公司」が香港株式市場に上場してしまった。
受注する際の首脳陣からの情報では、確か3年後の株式上場を視野に入れているとか云々。
「単なるパッケージリニューアルの案件」と映るかもしれませんが、「仕事の捉え方=受け手による枠組みの再構築→仕組みの創出」「仕事の進め方」ひとつで、「株式上場」という節目への「ニトロ」と化けた。デザインが。
その後、加速度的に上海株式市場にグループ3社「海底撈」「颐海」「蜀海」が順次株式上場を果たした。
更に海底撈海外店舗の出店ラッシュ(香港、マカオ、台湾、日本)にも繋がった。
ちなみに日本への出店も2015年と前倒しとなった。
火鍋業界への影響
既に外食チェーン業界でカルト的なシンボルとなりつつあった海底撈。
リーディングカンパニー云え、「他社の追随」をも見越してその先の「未来像を明確」にした後でのリリース。
目論見どおり他社は追随し、包装リニューアル嵐のバブルが生まれ、消費者にとってわかり易い情報の整理された正しいデザイン群が棚に並びはじめた。
包装デザインレベルの底上げ現象。
更に、大衆イメージだった火鍋そのものも高級路線や牛1頭拘りの業態など更なる多様化に進化を遂げる。
第2章
受注した背景
海底撈を知らない私。
小職は海底撈 ( hai di lao : ハイディーラオ)を全く知らなかった。
とある日の社員ぶどうちゃんとの会話から
ぶどうちゃん:「社長、私ぃ~海底撈のデザインがァ~どうしても理解できないんですけどぉ、どう思います?」
私:「海底撈???」
ぶどうちゃん:「えっ?!海底撈知らないんですか!」
私:「デザイン会社なの?」
ぶどうちゃん:「もういいです!」
踵を返し去ってしまった。
時は春節前の2014年1月下旬の出来事。
ぶどうちゃんとは?
ぶどうちゃんとは、2010年にヘッドハンティングした社員。
大学卒業後、国家公安職員(日本で言う警察署)となり、結婚を機に退職。その後、伊藤忠商事に転職。そして弊社へ。
中国語=日本語=英語を同時通訳できるほどの言語スキルをお持ちの方。
当時第二言語を完璧に取得した方は、そのスキルだけで高給が保証されているので、他のスキルを身につける必要がないのが一般。
で、現地の時間経過ともに使い物にならない社員と化す。→ほぼ10割。
しかし、このぶどうちゃんは、「自分自身も消費者の一人という自覚」、「マーケティングのイロハ」に始まり、「経済指標」にも強い。
優秀な学歴云えに独自の同窓ネットワークも世界に散らばっている。
交渉ディベートも強い。
つまり「優秀な地頭」に「多様分野の知識」を纏った人物。
自分に努力する時間を投資するのが当たり前な人物。
更に、公安に採用されただけのことがあって、嘘や偽り、言い訳などご法度の「正義の見方」みたいな人。
難点は、保守的な思考。
しかし後年この保守的な思考が私達夫婦を助けることになる。
ともかくヘッドハンティングに2年を要した首脳スタッフ。
じゃ、やってみようか。
春節休暇を経た後に、北京市内の伊藤忠との新商品打合せの後、対面のプレオープン中だった新しいモールの視察に。
その日もぶどうちゃんと私の二人。
モールでの食品売り場での会話。
ぶどうちゃん:「海底撈の話なんですけど」
私:「で、何なん?海底撈って」
ぶどうちゃん:「これです。」
ぶどうちゃん:「で、海底撈とは、、、、」
現行の火鍋商品パッケージを見ながら、海底撈の概要に始まり世に知られている物語やら店舗や商品についての説明を受ける。
海底撈の企業特徴などの基本情報は、ネット上に溢れているので本レポートでは執筆しません。
おそらく基本情報を執筆するだけで10冊以上の本が執筆できる。
興味のある人は、「海底撈」「特徴」「実家」などのキーワードで検索してみてください。感受性の強い方は、感動で涙腺が崩壊するかもです。
当時の中国フード市場に於ける「火鍋」は、すでに国民食の一角を担うほどの巨大シェアを確保。
が、大衆向けであり【大衆=安く安く】のベクトルが多数派であり、つまり主流。マジ闇鍋もあった。
小職自身、2006年から駐在していた地方都市湖南省長沙市でも重慶火鍋、四川火鍋は週一サイクルに入るごくごく当たり前の料理だった。
ぶどうちゃん:「で、これが海底撈火鍋スープのデザインなんですけど。私にはこのデザインは駄目だと思います。理解できません。」
私:「で、どうしたいの?」
ぶどうちゃん:「社長にデザインして欲しいんです」
私:「なんで?僕は海底撈今知ったんだよ」
ぶどうちゃん:「だからです。」
ぶどうちゃん:「社長也の視点で海底撈を捉えた先に、海底撈らしいデザインが生まれると思うんです」
私:「やだよ」
私:「海底撈って食べたことないし、ここ中国で外資系企業しかサポートしないって知ってんじゃん」
ぶどうちゃん:「海底撈はそこらへんの内資企業とは、企業理念も内規も全く違います」
ぶどうちゃん:「外資企業以上のフィロソフィーもあります」
ぶどうちゃん:「ポテンシャルが桁違いなんです。」
私:「わかりました。」
私:「で、どうすんの?具体的に」
ぶどうちゃん:「水面下で海底撈社内のリサーチは済んでいます。」
ぶどうちゃん:「今週の予定を教えて下さい。社長の空いた時間にアポ取ります」
私:「はい。わかりました。」
時に春節明け2014年2月11日(火)の会話
門戸を閉ざしていた海底撈。
当時の海底撈は、既に新規サプライヤーからの売込みが多すぎて門戸を絞っていた時期。
後に会社を何度も訪問することとなるが、会社では常に全国からの売込の大行列。
その行列を横目にオフィス奥へと通される我々は、彼たちにどのように写っていたのだろう。
今となれば心が痛くして仕方ない。
なぜ門戸が開いたのか?
案件成約後にわかったこと。
ぶどうちゃんのその後のアクションはドラマティックだった。
今までの人脈から、主権者、準主権者の特定。
更に海底撈首脳陣への人脈と準キーマンを辿る。
春節挨拶も兼ねているので、旧友にも連絡しやすい時期。
外資系・内資系のメガバンカー、既に米国LAにも店舗があったので米国現地バンカー系。
海底撈の商流リサーチ、社内力構図と首脳陣属性。
すべて言語化できるほどリサーチしていた。
中国では、横の繋がりによって社会運営が形成されている。
「ファミリー」に入るか入らないかで成果は雲泥となる構図。
つまりファミリーに認められた上で、ファミリー内の生情報の同時共有こそ成果取得の王道。
このファミリー云々の考え方は、中国ではとても重要な領域なので別レポートで「丸裸」にします。
アクションを起こしてみると、最初は窓口から窓口に盥回しにされたとのこと。
やはり門戸は閉じたままだった。
でもぶどうちゃんは、突破した。しかも電話一本で。
落とし文句はシンプルだった。
①お宅のパッケージだめですね。
②弊社は日系のデザイン会社です。
③リニューアルしてみませんか?
この3つ。
以下、準主権者とのやり取り
準主権者:「ウェイ。お電話変わりました。〇〇の〇〇です」
ぶどうちゃん:「エイニーハオ。〇〇のぶどうちゃんです。」
準主権者:「ご用件の概要は伺っておりますが、ご期待に添えないかもしれません」
ぶどうちゃん:「全商品のリニューアルのご予定があると伺っておりますが」
準主権者:「はい。その通りです。しかし、既に他の大手デザイン会社と契約を済ませたばかりですので、、、」
ぶどうちゃん:「それも伺っております。弊社は日系のデザイン会社で代表は日本人です。今後なにかのお役に立てるかもしれません。」
ぶどうちゃん:「弊社代表と一度お会いしてみませんか?〇〇と〇〇だったらお会いできますが。」
準主権者:「日系で日本人ですか。わかりました。お会いしましょう。早いほうが良いですね。今晩いかがですか?」
急遽その夕方にぶどうちゃんに呼び出され、海底撈の店舗で火鍋を食べながら顔見世へと。
時に2014年2月13日(木)
ここから先は
¥ 1,000
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?