マズローの人間性心理学は本当に第3勢力か?
今日は本当にタイトルの通りです。
以前からずっと引っかかっていたんですが今日なんとなく答えが見つかった気がします。マズローの経歴とともにお話します。
マズローが祖とも言われる人間性心理学は、彼自身も著作内で述べているのですが心理学の第3勢力と言われます。第1勢力がワトソンに代表される行動主義心理学、第2勢力がフロイトに代表される精神分析学です。
第3勢力というと、他の2つと対立しているようですが、そうなのでしょうか?僕はそうは思わないのです。
彼の理論を理解するために、簡単に略歴を見てみましょう。
マズローは最初から人間性心理学のようなことを研究していたわけではありません。初めて心理学に傾倒したのはワトソンの論文を読んだ時だったそうで、彼の心理学人生はサルの研究から、つまり行動主義心理学徒として始まりました。しかし赤ちゃんが生まれ、その子を見ているうちに、ワトソンが言うように外部刺激によって赤ちゃんはどんな人間にでもすることができると言う主張に疑問を抱きました。それが行動主義から離れるきっかけです。
そして同じくらいの時期に第 2次世界大戦が勃発し、彼は世界平和のために心理学をすることを決意します。「どうすれば人間は幸せになるか?」と言うことがマズローの中心課題でした。フロイトの精神分析は病理的な人ばかり研究しており、そこに彼は疑問を覚えて新たな体系を組み立てることになりました。
略歴を簡単に見たところで3つの勢力の違いを述べたいのですが、その際に考慮すべきマズローの科学観を説明します。
彼は心理学の目的を「どうすれば人間は幸せになれるか?」の解明に設定しました。その問題設定に対しては、 2つのものが必要です。幸せの内容と、それに至る過程です。マズローの論説ではそれぞれ自己実現論、欲求階層論になります。
彼の欲求階層論は経営学などでも取り上げられるのですが、「モチベーション論」として扱われます。ここでいう「モチベーション論」とは組織経営において人を動かすために人々のモチベーションを研究し、それに合わせて行動を引き起こそうという目的のものです。つまり人を統制し管理し支配するためのものです。しかし経営学におけるこのような引用はマズローの目的に合致せず真反対であり、手段主義的誤謬と言えます。
マズローは『人間性の心理学』の第1章において彼の科学観を表明するのですが、科学は目的中心的でなければならないと言います。上記のような用いられ方は目的を蔑ろにしていると言えます。
さて遂に本題に入るのですが、人間性心理学と行動主義心理学の大きな違いはこの目的の違いにあります。前者は人間の幸福実現を目指すのに対して、後者は「刺激と反応」によって行動を予測し、統制することにあります。このように見れば、この2つは真反対の目的を目指しています。人を統制・支配する人がその個人の幸福を考えているはずありません。
さらにもう一つ方法論的な違いもあります。行動主義心理学は、細分化・類型化・専門化することで対象を絞って研究する<科学的接近>を取ります。これは物理学などでも採用されている、狭い意味の「科学」のメインの方法論です。一方で、人間性心理学は<科学的接近>を取りつつも<哲学的接近>も用います。<哲学的接近>とは全体と部分を統合的に把握しようとする方法であり、統合に際して、部分と全体の位置関係を確かめ意味を与えるために何らかの価値体系が伴うと言います。
なるほど、人間性心理学と行動主義心理学は対立しています。
それでは精神分析学を見てみましょう。精神分析は精神病理やノイローゼなど心理的に不健康な人ばかり研究しています。一方で人間性心理学は心理的に健康な人を対象にしています。このように研究対象を見ると全くの逆を行きます。しかし、研究対象の違いは根本的な考え方の違いでしょうか?先程の言葉を使えば、目的は異なるのでしょうか?
いえそんなことはありません。マズロー自身、精神分析は批判するものの評価もしています。研究対象は偏狭であるが、人間の本質に迫っており、人間の心理的健康を目指すという方向は合致していると言います。
さて人間性心理学は自己実現者の学問ではなく、人間の本能的欲求を解明して自己実現へと向かうものです。社会や文化の抑圧によって本能はへし折られます。それによって人は精神病理に陥ります。その病理だけに目をつけたのが精神分析です。臨床においては病理の方がはるかに問題になるので、精神分析学の発生は自然でしょう。細かいところで異なる主張をしていることもありますが、私としては人間性心理学と精神分析の大部分は重なると思っています。明らかな対立とは言えないと思います。
当時既に精神分析が大きな勢力となっており、人間性心理学は研究対象が異なるために第3勢力となったのかもしれませんが、私の意見では精神分析という不完全な学問を、精神病理だけではなく人間の健康な面も含めて包括的な体系として確立させたのが人間性心理学だと思います。フロイトは人間の本性は悪だと言いますが、それは抑圧的な、不健康な社会において現実を眺めているための誤りであったかもしれません。病理の起こる原因やメカニズムについてもマズローは言及しています。やはりより包括的と言って差し支えないでしょう。
以上のように、人間性心理学は第3勢力かという問題を見てきましたが、結論としては第3勢力とは呼びがたいかなと思います。
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