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#23 全米は泣かなくても私は泣いた。~本当にあった「きみに読む物語」~

母のアルツハイマー型認知症の中核症状が顕著になってきた2020年、父は83歳、母79歳。長い間「うつ病」を患っていた母の方が先に、”その順番”が廻って来ていた。

「お母さんね、”認知症”なの。だから介護認定受けて、介護サービスを受けようよ。お父さん一人じゃ、お母さんの介護は無理だよ?」

何度そう話しても、父は、「そんなことない!」と言って、母の認知症を認めなかった。父は、いつでも”母の味方”だったから・・・。

娘時代に、母を困らせたり、口喧嘩をして、母が泣き出すと父は私の方を殴った。どんなに私の方が筋が通っていても、父は母の味方をした。

なんでだよっ?! おかしくねっ?!

子供なりに、筋が通っている(と、思っていたw)娘の私よりも、世間知らずでわがままなプリンセス気取りの母の味方をする父の事が、私は大嫌いだったw そして、分が悪くなると父の後ろに隠れ「あなたが悪いから、お父さんに殴られんのよっ!」と、ドヤ顔の母はもっと嫌いだったwww

しかし、自分が結婚して家庭を持った時に、それが父と母の「夫婦のスタイル」だったのだと理解していった。父は、母の「最強のナイト(騎士)」だったのだ。

認知症でどんどん壊れていく母にも、父は「ナイトの務め」を誠実に果たそうとした。しかし、そんな父の事を、母は一番始めに忘れていく・・・。

「もしもし?Ilsa子? 今ね、”知らない男の人”が家に居て、恐いんだけど・・・。この人、誰っ?あんた知ってる?!」

                                                      

夕方になると、母から同じ内容の電話が頻繁に来る様になった。その度に「俺だよぉぉ~んw」と、母の電話口の後ろから、暢気に笑う父の声が聞こえていた。

母は父と結婚した事も忘れ「貴方なんかと結婚した覚えはないわよっ!」と、怒り、父を責める。私は父が可哀想で何度も仕事途中で退出し、実家へ車を走らせた。

母「貴方誰っ?! なんで?なんで私が貴方なんかと結婚したのよっ!!
そんなはずないわよっ!! 貴方が私の”夫”だなんて・・・。

私(・・・いやいや、それ言っちゃう??認知症、恐るべしだな・・・。)

父「なんでってか?! 見合いで結婚したんだよっ!! 決まってんだろ!!w

私(いや、お父さん?そこっ?!そこなのっ?!・・・。)

絶妙なボケというか、本当に呆けて来たんだか、微妙な父の応戦ぶりに、何とも言えない気持ちになる。50年以上も連れ添った挙げ句、そんなこと言われて、こうも責められちゃ、心折れますよっ?! ふつーならさ・・・。

母「貴方が私の夫なら、証明しなさいよっ!! 結婚したっていう証明!! 

私(いや、”証明”ならばここに・・・。控えておりますが?ナニカっ?! )

父「証明っ?! 証明なら、ここにいるだろっ!  娘がっ!!

私( まさしく、その通りっ!! お父様、ナイスプレイっ!! )

母「娘?!この子は私の娘ですけど、貴方の娘じゃーありませんからねっ!!

私(!!!! なんとっ!!!! そうなの?! じゃ私の”本当のお父さん”はダレっ?!)

父「俺の娘に決まってんだろっ! コイツはもう50年以上も俺の娘、やってんだぞっ!

私(覚えていてくれて、ありがとう・・・。でも言い方ね、言い方・・・。)

母「あ、そうですか。じゃー私の娘ではないね。

私(はぁーっ?!なんでそうくるぅ??認知症、マジ恐るべし・・・・・・。

仲裁に行った私の方が、毎度、心折れる・・・。
辛抱たまらず、早々に帰ってくる。

だが同居している父は、そうは行かない。
”早く母を何とかしないと、このままでは父がもたない・・・。”

それでも父は、母と離れることを拒んだ。

「二人が結婚した事を証明しろっ!!」と責める母に、父は、二人の結婚式の写真やら、家族のアルバムを出してきて、毎晩、毎晩、繰り返し、二人の馴れ初めから、結婚式での様子や、家族の歴史を語って聞かせた。母にせがまれる度に、何度でも・・・。

母が直ぐに忘れてしまうからと、何度でも、父は、母に語って聞かせた。「二人の人生の物語」を・・・。

それはまるで、昔観た映画『きみに読む物語』のように。

”あんなふうに、母にも奇跡が起こるのだろうか・・・。”

いや、とてもそんなふうには思えない。あれは”映画”だ。
現実はそんなロマンティックじゃない ―――。

でも、私は、父から「母を引き離す作戦」を中止した。
父にもMCIの症状が出て来ているけど、でもだからこそ、父の望む様にしてあげたい。父が納得いくまで、母の事は父に委ねよう。私は父の後方支援に徹すればいい。

父の『きみに読む物語』の結末は、二年後に訪れた。。。


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