森は海の恋人運動:漁師が始めた植林活動が海を豊潤にする(CASE: 25/100)
▲「森は海の恋人運動」とサステナビリティ
2011年3月11日の未曾有の巨大地震の後、当時の東京大学の教職員や学生有志と共に宮城県気仙沼市を定期的に訪問し、「イノベーション」を学ぶ私たちだからこそ出来ることを、という思いを胸に、復興支援活動を始めました。その時に知ることとなった事例が、今回ご紹介したい「森は海の恋人運動」です。
1980年代、気仙沼にてカキ養殖業を営んでいた畠山重篤さんは、せっかく育てた牡蠣の身が赤く血のように変色するようになり、衝撃を受けました。水産試験場での検査などを経て判明したのは、牡蠣が赤潮プランクトンを食料としていたことでした。赤潮プランクトンは、汚い海で増殖します。牡蠣が本来であれば食料とするケイソウ類は、森の腐葉土に含まれる養分で育ちますが、その養分が不足し、結果として赤潮プランクトンが発生していたのでした。
畠山さんは、良い牡蠣を生産するには、その海に流れ込む川、そして、その上流の森が大切なことに気がつきました。川の流域に住む人々と価値観を共有し、1989年、漁師でありながらも仲間と共に、気仙沼湾に注ぐ川の上流の室根山に、広葉樹の植林運動を開始しました。合い言葉は「森は海の恋人」。森と海の関係性の本質を端的に表す素晴らしい言葉です。
これまで約3万本の落葉広葉樹の植樹が行われてきました。また、川の流域に暮らす子供たちへの環境教育の重要性を感じ、子供達向けの体験学習も行い、参加者は1万人を超えるようです。
持続可能性を語る際、自己完結や自立系のキーワードはよく使われます。しかしながら、この事例のように「依存関係を前向きに捉えて、その関係性を補強・促進させることで持続可能性を高める」ということもまた、アプローチとしては有効な場合があります。
現代のように社会課題が複雑化し、一筋縄では解決できない状況に私自身直面するとき、産業や文化を越えて本質的な因果関係を洞察し、その原因に対して自らの職業をも越境してでも挑む畠山さんの姿勢に、学ぶことが多くあります。
▲参照資料
▲キュレーション企画について
イノベーション事例についてi.labがテーマにそって優れた事例のキュレーションを行い、紹介と解説を行います。
2022年のテーマは「サステナビリティ」です。
▲今回のキュレーション担当者
i.lab マネージング・ディレクター 横田幸信
▲i.labについて
i.labは、東京大学i.school ディレクター陣によって2011年に創業されたイノベーショ ン創出・実現のためのイノベーション ・デザインファームです。東京大学i.school(2017年4 月 より一般社団法人i.school)が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を研究しながら独自進化させてきた理論知と、i.labが産業界で磨いてきた実践知の両輪で、企業向けにイノベーションのためのプロジェクトを企画·運営しています。
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