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バリの舞踏ショー:観光が新しい「伝統」を生み出す。近代化と多様性は両立できるか。(CASE: 29/100)

▲「バリの舞踏ショー」とサステナビリティ

学生時代、一人自転車でバリ島一周にチャレンジしたことがあります。4日で約400kmを漕ぐ(しかもマウンテンバイクで)というハードな旅でしたが、美しい田園風景に癒されたのを覚えています。
旅の中で印象的だったのは、休憩に立ち寄った屋台で店主から「なぜバイクも車もあるのに自転車なんかで苦労しているんだ?」と言われたことでした。自分の頭の中で、勝手にバリを近代から遠ざけていたことに気づき恥ずかしくなるとともに、観光産業の発展に伴う近代化と「伝統」を感じさせる風景や文化が両立していることに目が向くようになりました。

バリ島は 「神々の住む島」、「最後の楽園」などと称され、世界中の観光客を魅了してきました。バリの観光資源の一つが、「ケチャ」などの舞踏ショーです。ケチャは伝統芸能として語られていますが、実は現在の形式は1930年代に西洋の芸術家によって生み出されたそうです。
オランダによる植民地時代、1930年代のバリ島内には多くの西洋の芸術家たちが住みついていました。西洋の芸術との出会いの中で新しい芸術スタイルが生まれ、バリ・ルネッサンスと呼ばれました。ケチャも元々はトランス儀礼で用いられる男性のコーラスでしたが、ドイツ人画家シュピースによってラーマヤナ物語と結び付けられ、壮大な舞踏として再創造されました。

このようにバリの「伝統」芸能は、西洋芸術と出会うことにより再創造され、その後観光用のビジネスとして洗練されたり、逆に寺院向けの奉納儀礼の中に新しいスタイルとして取り込まれたりしてきました。文化人類学では、こうした動きを文化の「消滅」ではなく文化の「生成」として呼ぶ議論もされています。

バリでは、観光産業の発展により、いわゆる貧困層は大幅に減少したそうです。近代化がもたらす環境破壊や文化の均質化といった負の側面には引き続き注意が必要ですが、文化の「オリジナル完全保存」を目指すのではなく、「混ざり移ろいながら発展する」方向を目指すことで、生活の質と文化的豊かさを両立したサステナビリティが可能になるのかもしれません。
近年話題のサステナブルツーリズムも、観光によって現地の暮らしや文化を豊かにしながら、環境や文化的多様性を守るという、変化と保存のバランスに挑戦している取り組みと言えるでしょう。

▲参照資料

https://core.ac.uk/download/pdf/233225163.pdf

▲キュレーション企画について

イノベーション事例についてi.labがテーマにそって優れた事例のキュレーションを行い、紹介と解説を行います。
2022年のテーマは「サステナビリティ」です。

▲今回のキュレーション担当者

i.lab ビジネスデザイナー 島村祐輔

▲i.labについて

i.labは、東京大学i.school ディレクター陣によって2011年に創業されたイノベーショ ン創出・実現のためのイノベーション ・デザインファームです。東京大学i.school(2017年4 月 より一般社団法人i.school)が世界中のイノベーション教育機関や専門機関の知見を研究しながら独自進化させてきた理論知と、i.labが産業界で磨いてきた実践知の両輪で、企業向けにイノベーションのためのプロジェクトを企画·運営しています。

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