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『青い眼がほしい』トニ・モリソン
はじめに:貧しい黒人の少女
今回は、女史が好きな本小説を紹介する。
これは、貧しい黒人の少女たちの日常を描いた作品である。タイトルの通り、貧しい黒人の少女たちは、社会のヒエラルキーの最下層に位置している。彼女たちは、日々を子供ながらに一生懸命生きる。
そして彼女たちはふと思う。なぜ自分たちはこうも辛い思いをするのか。
これは、アメリカにおける人種差別を描いた作品だ。終始黒人の子供たちの目線で書かれており、彼女たちが我々読者に投げかける無邪気な疑問が我々の胸を痛める。
そして、女史のnoteをどう読むか、こちらを参考にしてくれ。
少女の願い:青い眼と白い肌
主人公である黒人の少女たちは、黒人ばかりが住む、非常に貧しい地域で育つ。周囲の大人や家族はまともに教育を受けておらず、彼女たちは大人の理不尽なふるまいや、暴言や暴力に囲まれて育つ。
そんな中、黒人の少女たちは、白人の女の子たちが周囲の人々からちやほやされて可愛がられる様子を目の当たりにする。白人の子と自分たち黒人の違いは、肌と目。それ以後、少女たちは、青い眼と白い肌があれば、自分だってあの白人の子のように幸せになれるのだ、と思うようになる。
主人公の黒人の少女が、誕生日に白い肌と青い眼をした人形をもらうシーンがある。その黒人の少女は、もらった人形をばらばらに分解して、大人たちに怒られてしまう。その少女は、白人の子が、なぜ可愛がってもらえるか、人形の中身を除くことで、自分たちとの違いが判ると思ったのだ。
本小説の中でも、非常に切ないシーンであった。
そして、成長を重ねる黒人の少女たちは、様々な残酷な体験を通じて、白人至上主義の世界の中で、自分たちは塵に過ぎない存在であるのだと気づく。
おわりに:文化・文明発達による不平等と文学の価値
ルソーは、文化と文明の発達こそが不平等の原因であると説いた。白人という人間が、自分たちを中心に発達させた文化と文明の中で、自分たちの尺度で美の意識を創った。黒人、黄色人種は醜い。白人こそが美しい。ルソーの言う、自然状態においては、ありえない価値観だ。(詳しく知りたい人は、女史の『人間不平等起源説』ルソーの記事を読んでくれ)
これら西洋社会がつくった西洋的文化がはびこる。日本にも多くの西洋文化が根付いた。結果、日本でも本小説と同様の現象が時折みられる。テレビや雑誌、イベントで、あえて白人を起用する日本企業。白人は美しい、というステレオタイプな意識を抱く日本人。
そして、トニ・モリソンは、それらを鋭い観察眼で、無垢の少女の視線でそれらを描く。彼女の文学は、恵まれた人々が普段考えもしない事柄を、人の情緒に訴える形で描いた。女史の好きな岡真理さんの言う、”祈り”である。(この意味を知りたい人は『アラブ、祈りとしての文学』岡真理を読んでくれ)
我々は、なぜこうも人が創りし虚構の文化・文明に囚われ、自らを不幸にしていくのか。深く考えさせられる小説であった。