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書籍レビュー『数の悪魔 算数・数学が楽しくなる12夜』ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー(1997)数の悪魔と数字の旅に出よう


子どもから大人まで楽しめる

この本は書店で
表紙を見た時から
強烈なインパクトを感じました。

なんとなく、
タイトルや表紙の見た目から
中身が想像できないでしょうか。

私は、イメージがすぐに
頭に思い浮かんだんです。

きっと、この本は、
算数や数学に関する基礎を
物語的に書いた本ではないか、

そう思ったんですよね。

実際に読んでみると、
思ったとおりの内容でした。

以前、テレビ番組で、
(『ヒルナンデス!』だったはず)
プログラミングができる
子どもが出演していました。

彼がパソコンで作った
算数パズルゲームに
出演者陣が挑戦する
内容だったと思います。

その時に、テレビに出ていた
子どもが算数を好きになる
きっかけになった本として、
本書を挙げていました。

それを見て、
私はますますこの本を
読んでみたくなったんですよね。

私は子どもの頃から、
算数が苦手で、
今でも数字を扱うのが
得意ではありません。

そんな私でも、
この本を読めば、
少しは数字への苦手意識が
克服できるのではないか。

そんな淡い期待を寄せて、
本書を手に取りました。

不思議さがおもしろい

本作の主人公、ロバートは、
小学生の子どもです。

彼は毎晩、悪夢にうなされていました。

ある時、夢の中に、
悪魔の恰好をした老人が
出てきます。

老人は「数の悪魔」でした。

悪魔がステッキを振ると、
不思議な数字の世界が
ロバートの前に広がります。

ロバートは算数が苦手なので、
最初は悪魔の話に
うんざりしていました。

ところが、悪魔の話す、
算数の話は、
学校の先生の退屈な話とは違い、

ロバートの好奇心を
くすぐる話だったのです。

例えば、本書に出てくる
数字の法則の一つに
「フィボナッチ数列」が
あります。

この数列は、
1、1、2、3、5、8、13、
21、34、55、89、144……

といった感じで、
なんの法則性もないような
数字が永遠に並ぶ数列ですが、

このフィボナッチ数列は、
自然界にもよく見られる
数の法則になっているんですよね。

例えば、ひまわりの種の配列は、
このフィボナッチ数列に
当てはまりますし、

その螺旋の比率は、
宇宙の銀河の渦巻きとも
共通しているそうです。

そして、この物語の中で、
フィボナッチ数列は、
この奇妙な式によって、
登場します。

1=1
   1+1=2
      1+2=3
         2+3=5
            3+5=8
               5+8=13
                  8+13=21

この式は、見た目からわかるように
式の最後の隣り合った数字を
順番に足していっているものです。
(「1+1=2」なら「1=2」の部分)

この数式の列をよく見てください。

何か気づくことはないでしょうか。

……こうすればわかりますよね。

11
   1+1=2
      1+2=3
         2+3=5
            3+5=8
               5+8=13
                  8+13=21

各式の最後の部分が、
フィボナッチ数列に
なっているんです。

この数式は
永遠に繰り返すことができます。

そして、その数の配列が
自然界の法則にも
当てはまるなんて、

なんだかロマンを感じないでしょうか。

私たちの身近なところにも、
このような数字の法則が
多く存在しているんですよね。

専門用語を用いずに
高度な内容を解説

数学系の本は、
私もたまに挑戦するんですが、

体外、数式が出てくるところで
挫折して、
適当に飛ばしながら
読み進めることになります。

それと、そういった本では、
難しい専門用語が
たくさん出てくるので、
余計に難しく感じたりもしますね。

その点、本書は、
子どもにも読みやすい
絵本のような体裁になっているので、
誰にでも親しみやすい内容です。

まず、挿絵がおもしろいですね。

表紙にも描かれていますが、
媚びすぎず、それでいて、
どこか懐かしい感じがするので、
親しみを感じます。

そして、専門用語の少なさは、
この手の本にしては、
珍しいでしょう。

例えば、「累乗」というのが
ありますよね。

2の2乗(2²)とか、
3の4乗(3⁴)とかいうやつです。

さすがに、大人になった
今はこれらが
「2×2」「3×3×3×3」だなぁ
というのはわかるんですが、

これは子どもの頃、
最初は理解するのが
大変でしたよね。

「なんなのさ、それ?」
という感じでした。

本書の中では、
この「累乗」のことを

「ホップする」
という独自の言葉を使って
表現しています。

「ホップ、ステップ、ジャンプ」の
「ホップ」です。

つまり、「ホップ」=「跳ねる」
ということですね。

「歩き」なら
「1、2、3、4……」
と一つずつになりますが、

ホップしているので、
「2、4、8、16……」
と数字が飛び飛びになる
というわけです。

こんなに直感的に
わかりやすい説明は
ないですよね。

そして、こういった
数字のさまざまな表記が
ある理由も悪魔が
丁寧に説明してくれます。

その意味については、
また機会があったら書きます。
(記事が長くなるので)

とにかく、算数・数学の
基礎的な内容をこれほど平易に
おもしろく書いた本は
なかなかないでしょう。

「数字が苦手だ」
という人にこそ
読んでほしい名著です。


【作品情報】
発行年:1997年
    (日本語版2000年)
著者:ハンス・マグヌス・エンツェンスベルガー
訳者:丘沢静也
出版社:晶文社

【著者について】
1929~2022。
ドイツの作家、詩人、
批評家、翻訳家。
ブレヒト以降の重要な
社会派詩人としても知られる。

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