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書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争



地を制した人類は
天へとその触手を伸ばした

本作を知ったのは、
海外文学を多く紹介した
『やりなおし世界文学』
という本を読んだ時でした。

『やりなおし世界文学』津村記久子

この本の中で、
「大陸を制した人々が
 今度は上を目指した」

というような紹介が
されていたんですね。

私は建築にも興味があって、
特にそびえたつ高層建築には
憧れすらあります。

本作はそんな高層マンションを
舞台にした物語です。

ロンドンの中心部に建つ
高層マンションは、
40階建ての高層住宅で、
1000戸、2000人が暮らしています。

マンションの中には
マーケット、プール、
ジム、レストラン、
果ては銀行、小学校まであり、

マンションの中だけで、
生活を完結させることができます。

今の時代だったら、
こんなマンションがあっても、
なんら不思議ではありませんが、

本作が書かれたのは、'70年代です。

(ちなみに、世界初の高層オフィスビルが
 建てられたのはシカゴで、
 1885年のこと)

おそらく、そういう時代に
書かれたのもあって、
本作は SF という扱いになっています。

今から見れば、普通に感じるものも
多いかもしれませんが、

当時からすれば、
本作に出てくるあらゆる技術は
未来のものだったんですよね。

現実の世界にもある
階層間の闘争

「高層マンション」「ハイテク」
といったワードから
「ミステリー」や「SF」の要素を
多分に感じるかもしれません。

しかし、本作はそういった部分よりも、
「ドラマ」の部分が
強く打ち出された内容に感じました。

このマンションには、
階層のようなものがあって、

上に行くほど、
高収入でインテリの人々が
住んでいるんですね。

そのトップに君臨するのが、
このマンションを設計した
建築家、アンソニー・ロイヤルです。

上の階の住人たちは
どこかで下の階の者たちを
下に見ています。

逆に下の階の住人たちは、
上の階の者たちを
ねたんでいます。

このような階層間の闘争が
リアルに描かれており、
人間の本質的な部分が
表現されているんですよね。

混沌によって
あぶり出される人間性

マンションの全部屋が
すべて入居済みになった夜に
事件は起こりました。

その夜、マンションは
停電になったのです。

停電はいつまでも解消されず、
住民たちの生活は
徐々に脅かされていきます。

そんな中で、
暴行や窃盗が頻発するんですね。
(果ては殺人まで)

停電によって、
住人たちの本性が
暴かれていくのです。

最終的にはマンション内の状況は
混沌とした状況に陥っていきます。

それでも、そんな中で、
マンションの暮らしに
満足する者がいたり、

上の階への侵入を目指す
下層階の住人も出てくるんですね。

この混沌とした状況こそが、
本来の人間の形である
という感じもすごくします。

それは著者が訴えたかったことの
一つではないかとも思うのです。

本作を読むと、
同じ出来事を体験しても、
立場や考え方が違えば、

感じることや行動も
人それぞれに違うのが
わかるでしょう。

またこのマンションに見られる
階層間の闘争は、
今の現実の世の中にも
存在しているんですよね。

それを当然のことと捉えるか、
あるいは、変えるべきことと
捉えるのか、

それもまた人によって、
解釈が異なるでしょう。

解釈の違いがあるのが、
またおもしろいところなのです。


【書籍情報】
発行年:1975年
    (日本語版1980年)
著者:J・G・バラード
訳者:村上博基
出版社:早川書房、東京創元社

【著者について】
1930~2009。
上海生まれ、イギリスの作家。
1956年、
『プリマ・ベラドンナ』で
作家デビュー。

【同じ著者の作品】

『残虐行為展覧会』(1970)
『クラッシュ』(1973)
『太陽の帝国』(1984)

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