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書籍レビュー『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック(1937)カリフォルニアの雄大な自然、徐々に高まる不穏な空気


アメリカ文学の巨人、スタインベック

本作を手掛けたスタインベックは、
「アメリカ文学の巨人」
と言われた作家で、
生涯で27冊の著作を発表しました。

それらの多くは
西洋文学の古典とされており、
とりわけ重要な作品は、

ピューリッツァー賞を受賞した
『怒りの葡萄』('39)です。

当時の経済恐慌を反映し、
カリフォルニアにやってきた
移民の農民たちと資本家の
摩擦が描かれています。

'52年に発表された
『エデンの東』は、
ジェームズ・ディーン主演で
映画化もされました。

ジョージとレニーの
凸凹コンビ

『ハツカネズミと人間』は、
『怒りの葡萄』よりも
前に書かれた作品ですが、

『怒りの葡萄』と同じく、
スタインベックが生まれ育った
カリフォルニアが舞台で、

貧困層の農民が描かれている
という点も共通しています。

この物語には著者が学生時代に
季節労働者として働いた経験が
反映されているそうです。

本作には二人組の出稼ぎ労働者が
主人公として登場します。

ジョージとレニーです。

ジョージは背が小さいですが、
堂々としていて、
頭の切れる男、

もう一方のレニーは背が高く、
力が人並みはずれて強いのですが、
臆病で頭がよくありません。

二人はいつも一緒に行動しています。

レニーはものを
覚えているのが苦手で、

いつもジョージに指示を
もらわなければ、
何をすることもできません。

今はしがない
渡り労働者でしかない
ジョージとレニーですが、
二人には大きな夢がありました。

それは自分たちの土地を持って、
その土地が恵んでくれる
最高のものを食べ、

好きな時に働いて、
好きな時に遊ぶことです。

レニーはたびたび、ジョージに
この夢の話をすることを
せがみました。

最初は「またかよ」と、
いやいやながら話しはじめる
ジョージですが、

話している内にその語り口は
徐々に熱を帯びていきます。

そして、この話をしている時、
二人はとても幸せな
気分になるのでした。

カリフォルニアの雄大な自然、
徐々に高まる不穏な空気

スタインベックの作品は、
はじめて読みましたが、

序盤から舞台のカリフォルニアの
風景の描写が印象的でした。

川の水であったり、
草の間に隠れる小動物であったり、

その描き方は非常に映像的で、
読者はいっきにその世界に
惹きこまれることでしょう。

そして、その舞台に現れるのが、
前述した凸凹コンビです。

作中の多くのシーンは、
二人のやりとりによって
話が進んでいくのですが、

この会話がまたおもしろく、
読んでいるうちに
思わず口元がほころんでしまいます。

そんな二人が新しい農場に辿り着き、
さらに物語が進展するのです。

そこで出会った人たちは、
当たり前のことながら
二人にとって、
いい人もいれば嫌な人もいます。

そういった人物たちとの
さまざまな化学反応が見られるのも、
本作のおもしろいところです。

とにかく、ジョージとレニーは、
邪気がない純朴な青年たちです。

ともに心から信頼し合った、
相性抜群のコンビでした。

前半は、このコンビの
持ち味がよく出た
ほのぼのとしたムードが
続くのですが、

そんな中にも、
どこか不穏な空気が漂います。

というのも、
レニーはあまりにも純粋すぎて、
作中の人物の言葉を借りれば、

「赤ん坊がそのまま
 大きくなったような」
大人なんですね。

これが危なっかしいこと
この上ないわけです。

後半は、この危なっかしさが
災いして、とんでもない方向に
話が転がっていきます。

果たして、二人は夢を叶えることが
できるのでしょうか。

読者にはどうか
最後まで二人の行く末を
温かく見守ってほしいですね。

そんな風に言いたくなるほど、
魅力的な二人でした。


【書籍情報】
発行年:1937年
    (日本語版1939年)
著者:ジョン・スタインベック
訳者:大浦暁生
出版社:新潮社

【著者について】
1902~1968。
アメリカ生まれ。
1929年、『黄金の杯』で
作家デビュー。

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