(28)重点大手顧客の深掘りに向けてソリューションの幅を拡げていく(プレIPO期)
スタートアップ「プレIPO期」の2番目の記事です。
※プレIPO期:一般的には「レーター期」の後期に含まれます。私は本ステージを「IPO後の成長に向けて攻めと守りの投資を加速する段階」を定義しています。
今回の記事は、課題(28)「重点大手顧客の深掘りに向けてソリューションの質と幅を拡げていく」です。
①特定領域№1の実現から別領域へのサービス拡大の必要性
「大手企業向けの新入社員研修№1を実現してから事業領域を拡げていく」
2013年~2014年頃のレーター期初期に、アルー株式会社が設定した戦略方針でした。
アルーメンバーの弛まぬ努力や、パートナー講師の方々の多大なお力添えにより、多くのお客様にご支持をいただき、2016年頃に実際に№1(当社調べ)が実現したことで、上記の戦略方針の通り事業取組領域を拡張していくことになりました。
大手企業(従業員1000名以上と定義)向けの新入社員研修市場においても、シェアは10~13%程度であり、暫定1位でしかありません。
この市場で更にシェアを伸ばすことを前提としながら、更なる成長のために「サービス・ソリューションの幅を拡げること」は必要でした。
当社の企業研修サービスのターゲットは大手企業様です。国内上場企業がおおよそ該当します。2017年の時点において取引先は1000社を超えておりました。この1000社の企業様との間で更に大きな取引を作っていくことが重要だったのです。
②既存新規取引の拡大は、容易ではない
以前の記事で、スタートアップベンチャーにとっての新規開拓の重要性を説明させていただきました。
成長のためには新規開拓は最も重要な取り組みです。一方で新規開拓の初回取引は、金額的に小さいものになる傾向があります。顧客にとっても初のベンダーに発注をすることはリスクがあるため、小さな取引からスタートすることが合理的です。
注力すべきは、新規開拓をしたお客様との取引を、深く大きなものに育て上げていく「既存新規取引」です。既存新規取引を増やしていくことが、業績拡大に向けた重要な打ち手となります。
※ここで言う「既存新規取引」には、既に獲得している案件のリピート取引は含みません。リピート取引は「既存既存取引(既存の顧客に既存の取引をすること)」と分類させていただいています。
「既存新規取引」とは、既存顧客の新しい領域の取引を行うことという意味です。
しかし一度取引がある顧客だとしても、既存新規取引の拡大は簡単ではありません。
その理由としては、顧客は様々な業務を外部ベンダーに発注をしています。
顧客の立場に立てば、案件ごとに「最も良いサービスを提供するベンダーに発注をする」というのが合理的です。
(※ベンダーの種類が増えすぎて、コミュニケーションのコストが高くなり過ぎた場合に、ベンダー集約という打ち手を選択する場合もあります)
アルーの取り組む企業研修事業においても、大小様々な領域が存在します。
・新入社員研修
・若手フォロー研修
・課長研修
・部長研修
・役員研修
・公募型研修
・営業研修
・ITスキル研修
・語学研修
・組織開発・・・など。数え上げればきりがありません。
当社は前述のとおり大手企業の「新入社員研修」や隣接領域である「若手フォロー研修」では強いですが、他の領域にはそれぞれ得意とする競合企業が存在します。
例えば、当社として深掘り取引のために、新入社員研修の取引がある顧客に「営業研修」を提案したとします。そのお客様において営業研修を既に行っている場合は既存のベンダーとの比較になります。
概して、お客様は過去の取引の中で、各領域において最もよいベンダーを選択してきているはずですから、そのベンダー以上に価値を当社が発揮できなければ、別分野で取引があったとしてもお客様からは選ばれません。
この「領域の壁」を超えるのは、容易ではありません。
新入社員研修には新入社員研修のノウハウがあり、営業研修には営業研修のノウハウが存在します。
領域に対するノウハウを構成するものとしては・・・・
(1)研修プログラムの内容・質
(2)熟達した講師の存在、層の厚さ
(3)営業提案時のコンサルティング能力
(4)実績
(5)そして最も大切なものとして、営業メンバーの自信が挙げられます。
優れた競合企業を超える水準で上記の5要素を揃えて、初めて市場競争に勝つことができます。(個別案件では顧客の判断で選ばれることがあっても、市場におけるマクロ競争で勝つために必要です)
営業メンバーの努力だけではひっくり返せない世界です。
実現したい状態は「極めて強いワンプロダクト」と「幅広い領域に対応したソリューション」を保有することです。
既存新規取引の拡大には、組織としてのサービス開発投資が必要になってくるのです。
③研究開発の強化:キノコの商品開発部
2016年頃より当社では、研究開発活動の強化に取り組みました。
創業期より自前での研修プログラム開発を行えるケイパビリティを強みとしてきましたが、新領域に取りんだ際に本質的に顧客に価値を提供し、競合を上回るサービスを作るために商品開発部門の中にR&D機能を強化しました。
2015年に当社に参画した、人材育成・アセスメントの専門家であるSさん(2019年まで在籍。2018年~退職まで商品開発部長)を中心に「育成の成果にこだわる」という全社サービス方針を実現するプロダクト開発のための研究を強化しました。
当時の商品開発部のミッションは・・・
「未知と未来の探求により、業界を変える革新的なコンセプトアウトに挑戦し続ける」
というものです。
コンセプトアウトとは、私達の造語です。
商品開発活動において「プロダクトアウト」や「マーケットイン」という言葉が存在します。
一般的に「プロダクトアウト」というのは技術や社内アイデア起点で商品開発を行うことをさします。「マーケットイン」とは市場や顧客という買い手起点で商品開発を行うことです。
コンセプトアウトは、大くくりではプロダクトアウトに含まれますが、単一の商品を作るというよりは、アルーが確信する世界観「育成成果にこだわる」に基づく新コンセプト(WHAT)を研究開発し、顧客の想像を上回る商品群を提供していくという意図を表現した言葉です。
商品開発部メンバーは各自の人材育成研究分野を持ち、1~2年単位で研究をしつつ、都度プロダクト化を図るという活動をして行きました。
部署内では「キノコの森」と名付けた、研究会を不定期開催し、相互のノウハウの共有や人材育成に関する新論文等について読み合わせをする等を行っていきました。
そういえば、なぜ「キノコの森」なのでしょうか。
当時の商品開発部メンバーで付けた名前なのですが、商品開発部は深い森の中のしっとりとした空間のような雰囲気でありたい、そしてメンバーはその中で深く学び交わり菌糸を張り巡らせるというイメージだそうです。
④管理職領域への重点取り組み
キノコの商品開発部の成果を営業部門が顧客に展開する中で、ソリューション領域拡張における大きな方向性が少しずつ固まってきました。
2017年頃より当社は「管理職領域」を第3の柱に育てるという大きな方向性を決めます。(第1の柱:新入社員、第2の柱:グローバル人材育成)
管理職研修領域は、国内企業研修サービスにおいて、最も大きな市場です。
かつて2012年頃に「脱新入社員研修」方針の頃にも、取組をしようとしていた分野でした。大手企業新入社員市場№1を実現したタイミングで、改めて本格的に取り組むことを決めました。
なぜ管理職研修市場に当社が取り組むのか。
組織にとって管理職層のパフォーマンスが重要であることは、誰もが認識しています。顧客企業も重点的に育成投資を実施するのです。管理職一人あたり投資額は新入社員の6倍に及ぶと認識しています。
しかし、企業研修サービス業界においては、数十年間にわたり、サービスのイノベーションは起きていません。管理職層の育成において、積極的に満足していると回答できる顧客は少ないと私達は考えています。
管理職研修領域は上記のように魅力的な市場であるがゆえに、先行する競合企業も多数存在します。当社は2017年の意思決定時点において実績では他社に劣りますが、メンバー一人ひとりに蓄積された知見と能力は、決して見劣りするものではないと考えていました。
アルー社内の部門の連携を行い、積極的にチャレンジを続け「育成成果にこだわる」サービスを顧客に提案し続けることにより、管理職領域での市場でのポジション獲得をできると考えて重点的な取り組みを行っています。(2021年現在でも引き続き重点取り組み中です)
⑤教育×テクノロジー、その後のetudes事業へ
当社のチャレンジのもう一つの大きな方向が「教育×テクノロジー」でした。
2010年頃より米国では教育分野へのテクノロジー活用に取り組むスタートアップが多く誕生してきました。「EdTech」(エドテク)の進化により、教育格差の解消やより質の高い教育成果の実現がされていきました。
日本の企業研修サービス分野では、テクノロジーの活用はまだまだ大きな余地があります。
教育・育成とは本来、個々人毎に課題が異なるものです。ただ、コストの問題から集合研修一斉教育が企業の研修の普通のスタイルとなっていました。
テクノロジーを活用することで、
●個別育成/個別伴走:一人一人の課題に応じた育成サービスを提供する
●予測育成:受講生がどの程度成長するかを予測し、成長を阻害する要因を取り除いたり、成長のために必要な課題を先んじて提示することができる
●オンライン化:(2021年では当たり前になってしまいましたが)一人一人の労働環境やスタイルに合わせて学びの機会を提供する
等の価値を作り出すことができると考え、アルーは「教育×テクノロジー」への投資を開始しました。
当時の営業企画部メンバーを中心とした「テック検討チーム」を組成し、テクノロジー活用に関する検討を続けてきました。
その後、時代は少し先になりますがこの取組みの一つの結実として2019年に当社は、クラウド型ラーニングマネジメントプラットフォームの「etudes」を、株式会社D2C様より事業譲受をさせていただくことになりました。
etudesは20余年にわたってeラーニングに携わってきたノウハウを元に開発された、数十万ID規模での大規模運用が可能な、国産のクラウド型eラーニングシステム(LMS)です。
D2C様より、etudesの開発エンジニアチームや、本分野の企画営業のプロフェッショナルの方々にも当社に参画をいただいたことで、アルーは「教育×テクノロジー」領域のサービスについても強い競争力をもって顧客に提案活動を進めることができるようになっていきました。
本記事のまとめ
◆新規開拓をしたお客様との取引を深く大きなものに育て上げていく「既存新規取引」を増やしていくことが、業績拡大に向けた重要な打ち手となる
◆既存新規取引の拡大は簡単ではない。顧客は分野別に最良のベンダーに発注しており、それを上回るサービス力が求められるためである
◆「領域の壁」を超えるためには、総合力が求められる
企業研修サービスでは以下5項目が必要
(1)研修プログラムの内容・質
(2)熟達した講師の存在、層の厚さ
(3)営業提案時のコンサルティング能力
(4)実績
(5)営業メンバーの自信
◆総合力の拡充には、組織としてのサービス開発投資が必要になってくる
次回の記事は・・・・
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本記事を含む「プレIPO期」の全体像を解説した記事はこちらになります。
プレIPO期のスタート時点・主たる活動・到達地点について解説しています。よろしければぜひご覧ください。
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<「スタートアップ営業組織作りの教科書」をまとめて読むには↓>
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本noteでは別途アルーの「研修プログラム開発のストーリーとノウハウ」を公開しています。ぜひご覧ください。
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