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夏目漱石の「真面目力」

私が中学一年生の頃、夏休みの宿題の読書感想文を書くための本を図書館で探していた時のことです。

本当は福沢諭吉の伝記を借りたかったのですが見つからず、
代わりに「お札繋がり」ということで夏目漱石の伝記を借りました。
(当時は千円札の肖像は夏目漱石でした)

夏目漱石にさほど興味はなく、最初は適当に読んで早く宿題を終わらせてしまおうという気持ちで読んだのですが、これがドハマりしてしまいました。

夏目漱石が蝿のような小さな文字を書いて勉強したとか、ノイローゼに苦しめられたとか、それはもう魅力的(?)なエピソードに心を打たれました。

私はクーラーのない部屋で汗をかきながら夢中になって貪り読みました。
時間を忘れて夢中になって本を読んだのは、人生でこの時が初めてでした。

今でもその時の本をもう一度読み返したいのですが、残念ながら著者名も出版社も覚えておりません。
夏目漱石の伝記なんて山ほどありますので、探すのは絶望的です。
もうとっくに絶版になっているでしょう。

夏目漱石の「真面目力」

僕が君より平気なのは、学問のためでも、勉強のためでも、何でもない。時々真面目になるからさ。なるからと云うより、なれるからと云った方が適当だろう。真面目になれるほど、自信力の出る事はない。真面目になれるほど、腰が据る事はない。真面目になれるほど、精神の存在を自覚する事はない。

夏目漱石『虞美人草』

漱石は「真面目だから自信が出るんだ」と、小説『虞美人草』の中で説いています。
漱石の「真面目力」は半端じゃありません。腹の底から真面目です。
まあそんなんだから神経衰弱になるとも言えるんですが。

漱石の門下生に、鈴木三重吉という人物がおり、彼は23歳のときに神経衰弱をわずらい、大学を休学しています。
漱石は鈴木三重吉に宛てた手紙で、「君はいい加減な人間や軽薄な人間ではない、だからこそ神経衰弱になるんだ」といったことを書いて励ましています。

牛のようにずんずん進め

今回の記事の表紙の写真は、齋藤孝 著『夏目漱石の人生論 牛のようにずんずん進め』です。

牛になることはどうしても必要です。われわれはとかく馬にはなりたがるが、牛にはなかなかなり切れないです。あせってはいけません。頭を悪くしてはいけません。根気ずくでお出でなさい。うんうん死ぬまで押すのです。

漱石の手紙より

我々はついつい、スピードの出る効率の良い馬を目指しがちです。
しかしそうではなく、黙々と荷車や農機具を引く牛のようになりなさいと漱石は説きます。

「頭を悪くしてはいけません」というのは、これはすぐに諦めてはいけないという意味です。
望むような結果が出ないからといって、すぐにあきらめたり絶望したりするのは漱石に言わせれば「頭が悪い」というわけです。

漱石は乞食になっても漱石だ

人間も教授や博士を名誉と思うようでは駄目だね。
漱石は乞食になっても漱石だ。

漱石の手紙より

「まだ教授にならんか」と書かれた年賀状を受け取った漱石は、「漱石は乞食になっても漱石だ」と返信しています。
カッコイイなぁ~。
漱石は博士号を授与されてもおかしくない立場にあり、実際に文部省から博士号授与の通達が届いています。
しかし博士号の授与を漱石はきっぱりと辞退し、次のように返信しました。

小生は今日までただの夏目なにがしとして世を渡ってまいりましたし、これから先もやはりただの夏目なにがしで暮らしたい希望をもっております。

漱石の手紙より

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