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『物語のつくり方』感想:シナリオ全般の指南書、小説特化ではない
新井 一樹 著『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方』を読みました。
タイトルを見た時「小説の書き方を解説した本」と勝手に勘違いしていたのですが、本書はシナリオの作り方の本です。
ドラマ、映画、漫画原作などのシナリオを作るのに参考になります。
もちろん小説を作る時の参考にもなりますが、小説に特化した解説書というわけではありません。
小説ならプロットの作成に役に立ちます。
物語は「ストーリー」ではなく「ドラマ」を描く
本書の例題を引用します。試しに物語を考えてみてください。
男性は、成田章一(29歳)。女性は、木下瑤子(27歳)。
表参道の交差点で、木下瑤子が信号待ちをしていると、成田章一がたまたま隣に立ちます。車のクラクションで、2人がそれとなく顔を上げると、お互いに気づいて、あっとなります。
さて、ここからどんな物語が展開するでしょうか?
1分間でいいので、ちょっと考えてみてください。
ここで多くの人は「会社の同僚で何か会話を始めるのだろう」とか「大学時代の友人同士が偶然、再開したのかな」とか、そんな感じのことを考えると思います。
しかしそれでは物語は面白くなりません。
なぜかというと、それは「ストーリー」だからです。
ストーリーを頑張って面白くしようとしても、うまくいきません。
ストーリーではなく、ドラマを描くことで、物語は面白くなります。
ストーリー:出来事を伝えているだけ
ドラマ:人物が葛藤するなど、人間を描く
人間を描くこと(作者が言うところの「ドラマ」)を意識して、さっきの例題の続きを作ってみました。
表参道は朝からずっと曇り空だった。
木下瑤子は交差点で信号待ちをしていた。
クラクションの音が短く鳴り、ふと顔を上げると、隣に男が立っていることに気づいた。
木下瑤子はその男の顔を見るなり、目を見開いた。
「嘘、そんな……ありえない」
木下瑤子の顔は青ざめ、呼吸が激しく乱れ出した。
「あなたがなぜここにいるの!?」
その男――成田章一は、全て計画通りだと言わんばかりの、余裕の笑みを浮かべた。
人間が動いたり、動揺したり、葛藤したりすることで、物語は面白くなります。
登場人物をピンチに陥れる
人間の本質が垣間見えるのは、ピンチの時です。
登場人物を障害にぶつけることによって、人物が動き出し、葛藤・対立・相克などが生まれます。
葛藤:複数の選択肢の中で気持ちが揺れ動くこと
対立:異なる意見がぶつかること
相克:お互いが譲らない状態のこと
起承転結で言えば「承」の部分で、主人公に障害をぶつけて困らせ、葛藤させようと著者はアドバイスします。
私も小説を書いてnoteに公開した経験がありますが、この「主人公に障害をぶつける」の要素が弱かったと反省しています。
主人公があまり困惑したり葛藤するようなキャラではなかったため、代替案として脇役を困らせてみたところ、主人公より脇役の方がキャラが立ってしまうという失敗も犯しました。
物語を作る色んな人に刺さりそうな本
脚本、小説、自分史(エッセイ)、漫画原作など、いろいろな媒体を想定してアドバイスしている本なので、広く色んな人に刺さりそうな本です。
あくまでシナリオ作成に特化した本なので、これだけで物語が作れるかというと、どうしても足りない部分が出てくるでしょう。
例えば小説であれば、プロットを作成するには本書が大いに役に立っても、表現技法(レトリック)を使いたい場合などは別の本を参考にする必要があります。