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島移住のきっかけは「知らない人のツイート」からはじまった【能登半島弾丸2人旅】


2018年7月20日(金)
20:05

『今日の金曜ロードショー時かけですよ!!!』

突然やたらハイテンションなLINEが入った。
職場の後輩からだ。

『時かけ好きなの?笑
 これから能登行くから観れないや』

世は華金。
私は仕事終わりに高崎駅へ車を走らせていた。

『能登!?!?めっちゃ良いですね!!』

相変わらずハイテンションな後輩に
私は冗談まじりに返した。

『一緒に行く?』

『行きたいです!!!
 でもお酒飲んじゃったし電車もない😭』

『いや、こんな突然だもん 笑』

『お母さんにお願いして駅まで向かいます』

いや、来るんかい!!!!

突如計画した無計画一人旅は、なんの予兆もなく無計画すぎる2人旅へと路線変更。

そもそも切符すら買ってない新幹線を、終電の新幹線へと切り替えて。ギリギリで到着した後輩と合流し金沢駅へと向かう。

「そういえば時かけ観なくてよかったの?」
「もう何回も観てるので全然オッケーです!」
「なら良かったけど」
「それじゃ、かんぱーい!」

その後のコロナ禍じゃ考えられなくなったけど、新幹線に揺られながら缶チューハイで乾杯して、チータラとかじゃがりことかボリボリボソボソ食べたのは紛れもない華金だった。


2018年7月19日(木)
12:57

きっかけは本当に些細なことだった。
いつも通りの仕事場で
いつも通りの休憩中
いつも通りにツイッターを見ていた。

25歳にして色々拗らせていた私は、彼氏ができない同世代の女性ばかりをフォローしたアカウントを持っていて、女特有のネチネチした愚痴とかを見るのにハマっていた(酷い)

そんな人生の掃き溜めみたいなアカウントに突如流れてきた"綺麗な海の風景"。

海の上に規則的に配置された六角形のブロックが、スゴロクのマスのようにずっと先まで続いている。

その写真を見た瞬間
「このブロックを歩きたい」
と思った。

そのツイートには、それがどこの何かも書かれておらず、そもそもその人はフォロワーですらなく、なぜあのタイミングであのツイートが流れてきたのかも分からない。

でももうどうしようもない衝動に駆られて、カレンダーを見たら次の土日はお休みで、昼過ぎからちょっと仕事サボってアクセスを調べて、夜にはツイート主にDMを送っていた。

『こんにちは!◯◯と申します。
 フォロー返していただきありがとうございます。
 昨日投稿されていた九十九湾の写真がTLに
 流れてきたのですが、とてもとても綺麗で
「能登半島に行きたい!」という衝動に
 かられております。

 この土日、さっそく行こうかと思い立ったのです
 が、もし、九十九湾の他にオススメスポットなど
 あれば教えていただきたいです(^^)
 いきなりDM送ってしまい失礼いたしました…!』

フォロー外の知らん人からいきなりこんな熱量のDMが来たらビビるだろうが、誰かの何気ないひとつのツイートにどうしようもなく心躍らせる人がいる。

そう考えると、世の中って何がどこでどんな風に繋がるのか予想できたもんじゃない。

『DMありがとうございます。能登は良いところなのでぜひお越しください!九十九湾は正直そこまでオススメスポットというわけではないのですが、場所は………』

と能登に関する詳しい情報を丁寧に教えてくれた。

しかも九十九湾は特別大きな観光地というわけでもなく、そこを目的に行こうとしていることに少し驚かれたりもした。

観光地じゃなくても良い、私はあのブロックの上を歩ければ良いのだ。

海なし県民の私にとって、海に触れる距離に行くのなんて多分10年以上ぶり。

その夜は家の近くのチェーン店のラーメン屋で、餃子をつつきながら瓶ビールを飲み、とりあえず宿だけは予約して、久々の遠出に期待を膨らませながら翌日を迎えた。


2018年7月21日(土)
7:00

金沢駅についたそのテンションで深夜にラーメンなんて食べに行ったもんだから、翌朝若干の胃もたれを感じつつ早朝のバスに乗り込む。

会話もそこそこに2人は寝たり景色を眺めたりして過ごした。

「あ!見てみて!」
「わー!海だー!」

海なし県からやってきた我々は、高速バスからチラチラと見える程度の海に大げさなくらいキャッキャとはしゃいだ。
群馬県民あるあるなのだが海が見えるとテンション爆上がりする。

2時間半ほどバスに乗り、また別のバスに乗り換え約1時間で目的の九十九湾周辺に到着。

最寄りのバス停は映画に出てくるんじゃないかと思うほど、田舎でレトロな場所にあった。

少し歩くとなんらかの施設があった。
体験施設的なものらしく、予約してあればシュノーケリング等もできるらしい。

もちろん水着の用意などしていない我々は、シュノーケリングに後ろ髪をひかれつつも遊歩道まで歩く。

そして、見えた。

「海」だ。

10年ぶりくらいに見る海は美しいという表現ではたりないくらいで、だけど他の言葉をすべて失わせてしまうほど美しい景色だった。

海は広かった。

どこまでも続いていてキラキラしていて。
とろとろと滑らかな輪郭はすぐに広がっていつまでも見ていたいと思った。

そんな夢のような空間に
冒険を思わせる六角形のブロック。
歩きたかった道が、もう目の前にある。

「早く行こう!」

2人ではしゃぎながら、
大きな荷物を置きもせずそのまま駆け足で
ブロックを駆け抜けた。

私は今、海にいる。

2日前にはネットにしか存在していなかった世界に、
今私はいる。

それだけでもう、
とんでもないことをしてしまったような多幸感に包まれた。

それから私たちはいつまでも続いていく遊歩道を
立ち止まったりちょっと戻ったり、
海に足をつけたりしながら
ハイテンションで渡り切り、
遊覧船に乗ってみたり、
近くの休憩所でお昼を食べたりしながら
予約していた宿へ向かう。



2018年7月21日(土)
15:00

宿では次なるアクティビティである「釣り」が待っている。
宿の近くに小さな釣り場のようなものができており、お手軽に釣りが楽しめるのだ。

宿で釣竿、バケツ、エサなど一式レンタルし、
ちゃぽんと釣竿を垂らす。
すると一瞬で釣れるのだ。
(ほぼ釣り堀のよう)

バンバン連れてしまうので正直面白みにはかける部分もあったが、夢中になってバケツ一杯になるまで釣りまくった。

しばらくすると、糸が絡まってしまい釣りは強制終了となる。

自力ではとても解けない状態だったので、謝罪しながら玄関に待機していたご主人に渡す。

すると嫌な顔一つせずこう言ったのだ。

「こういう細かい作業好きだからさ」

と。

私はこの何気ない言葉が今でもずっと心に残っている。
もちろん怒るでもなく、慰めるでもなく
「この作業は好きだ」
とサラリと言ってのけた主人。
なんだかイカした返しがちょっとずるくていいなと思った。

それからご主人は手を止め、
思い出したかのように言った。

「そうだ、これからスーパーに買い物に行くけど、
 乗っていくかい?」
「え、いいんですか?」
「他にも寄るところあるから、行きだけで良いならだけど」

宿の人の車に乗せてもらうという経験がなかったため、私たちは「ラッキーだね!」なんて言いながら、歩いたら結構遠めのスーパーまで連れて行ってもらい地元のお酒を買って帰った。

夜には自分たちで釣った魚と買った地酒と、豪華なごちそうをたらふくいただいてあっという間に寝てしまった。


2018年7月22日(日)
7:30

弾丸旅行もあっという間に帰りの時。

この日も豪華な朝食をいただき、あとはまったくのノープランである。

「近くに道の駅ありますね。ここ、行ってみます?」

まったく下調べもしていないが、周辺に徒歩でいける観光地もなさそうだったので、バスに乗り「道の駅最寄りのバス停」まで行ってみる。

「あ、ここで一回乗り換えみたいです」

とりあえず中間地点らしいバス停で降りたものの、
周りには何もない。

「えーっと、次のバスの時間は…、え!?」

次のバスが全然来ない。
どれくらい来ないのかはもはや忘れたが、軽く絶望できるくらいにはバスが来なかったのである。

バスを待つか、歩いていくか。
(歩くにしても絶望的な距離だった)

15分くらい悩んだあたりで見つけたのだ。
『レンタサイクルあります』の看板を。

もうこうなったらレンタサイクルしかない。
砂漠の中にオアシスを見つけたような感覚で
田舎の中に一筋の光を見つけ出したのだ。

とりあえず看板に沿って歩くこと数分。
ちいさな公民館のような施設を見つけた。

入ってみると中には受付のお姉さんが一人。
「レンタサイクルを借りたいのですが…」
と恐る恐る聞いてみると快く貸してくれた。

そこからの我々はもう無敵状態で、
人生初めての電動アシスト付き自転車で
風のようにビュンビュンと突き進んだ。

7月後半の炎天下。
正直とても自転車になど乗ってられないほどの日差しで、だんだんと意識もウツロウツロとしてくる。

野をかけ坂をかけ長いトンネルへと入る。
路が細い薄暗いトンネルは永遠のように思えた。

だけどそこにはあった。
暗闇を抜けたその先に、
またも「海」が。

その時の光景は6年以上たった今でも
鮮明に覚えている。
比喩ではなく、光が降り注いでいたのだ。
昨日見た九十九湾よりも、一層夏の青さが増す海に
キラキラと雪のように降る光が。

汗を飛ばしてくれる風。
踏みしめるペダル。
ぐんぐん進む自転車。

すべてが夢のような空間だった。

その時にはすでにもう、
海の虜になってしまっていたのは間違いない。
自分が思っているより心のずっとずっと深いところから、海沿いで風を感じる素晴らしさに気づいてしまっていた。

やっとのこと目的地の道の駅について、
町の方々に
「お疲れ様~」
と温かい声をかけてもらいながら
さっぱりとサイダーを飲む。

その時のシュワシュワはちょっとしょっぱくて
「頑張り」を味で表現するのなら
こういう味がするのかなと思った。

一通り"頑張った"私たちは
そのまま体力を消耗しきってしまい、
ザザッと道の駅を見学したあと、
また自転車でレンタサイクルの公民館まで戻る。

「この先どうしましょうか」

ふとツイッターのDMを思い出す。

「近くに棚田があるみたいだよ?」
「棚田良いですね!このまま自転車で行けるかな?」
「時間的に厳しくない?疲れたし」

とりあえず自転車を返してから
次の目的地を「白米千枚田」へと決定した。

「自転車ありがとうございました~」

クラクラの表情で受付のお姉さんに自転車を返す。

「お疲れ様でした~。暑かったでしょう。
 この後はどこに行くの?」

と、我々を労ってくれるお姉さん。

「白米千枚田に行こうと思ってまして」
「そしたら送っていきますよ!ちょっと待ってて」
「え!!良いんですか!?でもここ一人ですよね?」
「どうせ誰も来ないから大丈夫大丈夫」

そんなことある!?と思いながらも
またしても町の方の送迎を頂戴してしまった。
この町には親切な人しかいない。

それから車のなかで色々お話しを聞きながら
目的地の白米千枚田に到着。

夏の青々とした棚田もまた美しく、そしてそこで食べるおにぎりが美味しくて。
おにぎりを食べながら出会った人たちのことを思い出す。
私はあっという間にこの町のことが好きになっていた。

帰りは再びバスとバスを乗り継ぐこと4時間。
言うまでもなく爆睡である。

こうして私の10年ぶりの海沿い旅である
能登半島弾丸旅が終わった。


これからと言うもの、
私は九十九湾の美しい時間と、
海沿いを自転車でかけた風が忘れられず、
海沿いサイクリングで適した場所を検討した結果
「島だ!」という結論に至った。

そこからは狂ったように週末に船に乗り海に行き、
小さな島から大きな島まで
自転車でぐるぐる回る人生を送り
ついには島へと移住をしてしまったのである。

きっかけは本当に些細なことだった。
いつも通りの仕事場で
いつも通りの休憩中
いつも通りにツイッターを見ていた。

そこに流れてきた「いつも通りじゃない」海の風景。

その一枚が私の人生を変えた。

投稿主とのやりとりはあの時に送ったDMだけで、私がここまで海にハマったことも島に移住したことも彼女(もしかしたら彼?)は知らない。

そう考えると、自分が何気なく発した言葉で
誰かの人生を大きく変えてしまうことなんてことが
あるのかもしれない。

ドラマチックな話なんかじゃなく、
ほんのすぐそこにある出来事のように。

これが、私の島移住の第一歩となるきっかけだ。

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