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20歳夏、私は女王と呼ばれた。葡萄とヴィンテージドレスの記憶。

20歳の夏
彼は私を女王と呼んだ。

彼とはヴィンテージショップで出会った。
お店のワンピースはすてきだった。
サンローランもシャネルも、ジバンシィも。
時間を見つけては通い、試着した。
これだという1着を見つけては、購入した。

彼は楽しそうに私を見ていた。
ときどき私に似合いそうなワンピースを選んでくれた。

その日も暑かった。
葡萄を買ったその足で、彼のお店に向かった。
お店に入ると、彼がいる。
彼は葡萄を見るなり
一緒に食べよう と言った。
私は
うん と言った。

葡萄を摘まむ。
彼の口を見る。
薄く柔らかそうな唇。
口角の上がった形のいい唇。
彼の口に葡萄を運ぶ。
彼が口を開ける。
いたずら心が芽生える。
焦らす。
彼はわざとらしく眉毛を下げる。
彼の口に葡萄を運ぶ。
私の指も彼の口に入れる。
彼の口の中。
肉の壁。
柔らかくてあたたかい。
女性器ってこんな感じなのかな。
と私は考える。

20歳の夏
彼は私を女王と呼んだ。

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