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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー80

「冥界図書室」

その声に向井達が振り返ると伸びをする牧野が立っていた。

「あ~よく寝た。図書室の椅子って寝心地いいよね」

「わがままって、私ですか? 
牧野君に言われたくないですね~」

「俺のはわがままじゃなくて正直なの」

「ほお~勝手気侭に行動しているものを正直とは、
いつからそうなったんでしょうね~」

「なんだよ。喧嘩売ってるの? 」

くだらないことで言い争っている二人を、
向井はばかばかしく見ていた。

「あぁそうだ。この前の発表会。
虎獅狼達がまた参戦したいそうですよ。
なんだか盛り上がってましたから、
余程楽しかったんでしょうね。
他の妖怪も出たいと言ってました」

「だったら、俺もリベンジする! 
佐久間の紙切りが準優勝なんて悔しいじゃん」

「でも、佐久間さんの副賞のA5ランクの肉で、
焼き肉して一番多く食べてたの牧野君でしょう? 」

「それはそれ、これはこれ。皆だって食べたじゃん。
で、俺って結局何位だったのよ。
早紀や源じいたちにも負けたんだよ」

「参加できなかった死神達もいるし大盛況でしたからね。
またやりますか」

つい数秒前まで文句を言いあっていたのにもう忘れてる。

言いたいことを言っても許されてしまう。

牧野君のこの性格だけは、
神様が彼に与えた特権のように思えるな。

向井は楽しそうな二人を見ながら微笑んだ。


数日後―――

地震と水害が続けて発生し、
下界ではちょっとした騒ぎになっていた。

冥界でもアートン達が冥王と執務室にこもって、
何やら話し合いをしていた。

特別室も騒がしくなり、
大沢からの呼び出しも頻繁になっていた。

向井がそのことを冥王に伝えると、

「暫くは特別室には行かなくていいです。
何か問題がある時は私が処理します。
なので、向井君には下界での変動を見ていてもらえますか? 」

「結界か………」

向井のつぶやきに冥王の眉が上がった。

「実は虎獅狼から結界の事を聞いたんですけど、
詳しいことは冥王から聞けと言われて。
この災害にはそれが関係しているんですか? 」

「この前図書室で聞きたいことがあると言っていましたが、
その事ですか」

「はい」

「………いずれ君には説明しますが、
今は下界も冥界も迷走状態です。
結論が出ないままに動いているので、
しばらく様子を見たあと、
君にもお願いをすることになると思います。
安達君のことも頼みます」

「分かりました」

冥王が口を濁すときは、
それ以上今は言いたくないという事なので、
向井は頭を下げると静かに執務室を出た。

下界の災害がこのまま治まらないとなると………
大きな事件に発展しそうだな。

向井はパトロールの為、その足で下界に下りた。


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八雲翔
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