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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー83
「特例 新田誕生」
次の日―――
狭間がやってくると、
「向井君はこのまま一度、
冥王にお会いください。
案内はアートンがするのでそこでお話があります。
牧野君と新田君はこっちへ」
向井は部屋を出たところでアートンに連れられ、
冥王の待つ執務室へと向かった。
部屋に入ると、
そこにはもう一人六十代位の男性がいた。
細身でピシッとスーツを着た執事のような印象だ。
「向井さんを連れてきました」
アートンはそれだけ言うと頭を下げ部屋を出て行った。
「君が向井君? 」
これが冥王?
想像と随分感じが違う?
向井は手招きする冥王の近くに歩いて行った。
「いい男だね~今年は新田君といい豊作の年だな」
冥王が笑った。
えっ?
向井が戸惑っていると、
「冥王。彼、困ってますよ」
横の男性が助け舟を出した。
「初めまして。私は高田と言います。
君が来たことでやっと再生できて、ホッとしました」
「高田君の任務終了に伴い、
新しい派遣課調査員を待ってたんですよ。
タイミングよく君が来てくれて助かりました」
冥王はそういうと椅子から立ち上がり向井の手を握った。
「とりあえず高田君から話を聞いて引継ぎが済んだら、
詳しい話はそのあとします」
「じゃあ、向井君、こちらで話しましょう」
高田はそういうと、
「奥の部屋をお借りしますよ」
と冥王に言い、向井を連れて行った。
――――――――
冥王室は書庫と小さな応接室があり、
寝室は部屋を出た隣にあった。
高田は応接室のドアを開けると向井を入れた。
中にはローテーブルとソファーが置かれていた。
「どうぞ。腰を下ろしてください」
高田も真向かいでソファーに座ると、
タブレットを開いた。
「これはこのまま君に引き継いでいただきます。
この中に派遣霊とその記録が入っています。
仕事の内容は聞いていますか? 」
画面を見せながら話し始めた。
「はい。室長から大まかな説明は受けました。
死後の世界がこんな風になっているとは知らず、
ちょっと驚きましたけど」
「ははは。そうですよね。私もビックリです」
二人は顔を見合わせ笑った。
「派遣課は特別室も担当するので、
そちらの方が大変かもしれません」
「特別室…ですか? 」
向井が怪訝そうに聞く。
「はい。詳しいことは冥王から説明があると思いますが、
特別室は少し神経をすり減らすことになるかもしれませんので、
覚悟しておいてください」
「はあ」
向井は首をかしげて返事をした。
「それとこれもお話しておいた方がいいかな? 」
高田は少しの沈黙のあと口を開いた。
「実は下界に黒谷という男性がいるんですが、
彼はちょっと普通と違う霊感の持ち主なので、
気に留める程度に覚えておいてください」
「霊感があるというのは姿を消しても、
俺達が見えるという事ですか? 」
「ん~そういうことかな。
消去が不十分で生まれ変わっていたので、
何度か消去を繰り返してみたんだけど彼は特殊でね。
消去しきれないので冥王にも報告はしてあるんですけど、
別段問題もないので監視対象としています。
多分私が再生されたと知ったら、
君に接触してくると思うから、
普通に相手をしていれば大丈夫です」
「どんな人ですか? 」
「国の移民対策でリストラになって仕事にあふれて、
その日暮らしをしている元自動車整備士です。
今三十一、二歳? だったかな。
短期バイトで築年数の古い団地に住んでいます。
ネットでも稼いでいるから何とか生活できている感じですね。
物にこだわらない面白い子ですよ」
「面白い子って、三十代ですよね」
「あはははは。子じゃないよね~
私はアラカンの六十二歳……
あっ、でもこの仕事も十五年だから、
生きていたら七十七歳。喜寿ですよ。
時間はあっという間ですね。
まあ、だから三十代なんて、
私からしたらまだまだひよっこって事ですかね」
高田が声を出して笑った。
「私はね。多分、次が最後の再生だと思うんです」
「えっ? 」
向井が驚いて聞き返すと、
「魂というのにも寿命があってね。
古くなると再生できないので処分されるんです」
高田の話に言葉がでなかった。
「驚きますよね。なので冥王にも、
このままここにいてもいいと言われたんですけど、
この魂が生きられる最後のチャンスなら、
成仏して生まれ変わろうかなと思ったんです」
高田は優しく笑った。
彼の話す姿を見て向井は初対面なのに寂しさを感じた。
「あなたと仕事がしたかったです」
向井の言葉に、
「有難う」
高田は笑顔で言うと今抱えている案件の説明を始めた。
その後、二人は応接室を出ると、
「お世話になりました」
「高田君も長い事ご苦労様でした」
冥王は相手を労うようにいい、
高田は部屋を後にした。
「さて、向井君には特別室の説明をするので、
そこに座ってください。
それともう一人の特例、
安達君についても君にだけ少し補足します」
冥王はそれだけ言うと静かに話し出した。
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