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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー81

「特例 向井誕生」

二年前――――

田所は下界から戻ると、
死神課の電子掲示板を眺めていた。

「ほお~今回は特例四人も入るんだな。
去年は二人、一昨年は三人。
これで少しは楽できるかな」

「どうしたの? なんか楽しそうだね~」

早紀が田所に声をかけた。

「電子掲示板? へえ~今年は四人も入るんだ。
去年は私と弥生ちゃんの二人だったからね」

「高田さんが再生されるから、
また一人減って増えてくれないかなと思ってたんだよな」

田所が両腕を組んだまま、早紀を見た。

「俺がここに来た八年前は、
特例も人数が多かったんだよね」

「えっ? そうなの? 」

「ああ。昔は大所帯だったらしいけどね。
俺が来た時は、それでも二十人はいたかな。
なのに一年後には俺と高田さんだけになって。
十八人も続けて再生される? ビックリだよ」

「あははは。それは驚くよね。
じゃあ、倉田君達がきてホッとしたでしょ」

「したした。で、早紀ちゃんと弥生ちゃんがきて、
仕事が楽になるぞって思ったな」

田所が笑うと、セイがやってきた。

「二人で何話してるんですか? 」

「ん? これ」

早紀はそういうと二人は同時に電子掲示板を指さした。

掲示板には番号だけで名前はない。

セイが赤ランプを見て納得したように笑顔になった。

「そうなんですよね~
今日二人冥界に来るので四人揃ったところで、
一ヶ月間の講義と訓練が始まります。
特例としてのお仕事は約一ヶ月半後になると思いますよ」

「どんな人が来るんだろう」

三人は赤ランプをじっと見つめた。

――――――――

三途の川から一旦サロンに運ばれたと思ったら、
そこから死神と呼ばれるものに連れられ、
向井は広い一室に連れていかれた。

自分が死んだときの記憶があいまいで痛みが消えた後、
気が付いたら死神に連れまわされて移動していた。

服も上下でカジュアルなスウェットに着替えさせられ、
ここに来た。

部屋に通されると中には二人の若者がいた。

会議テーブルに椅子が並べられ、
二人は微妙な距離で席についていた。

向井は部屋に入ると、
空いている椅子に腰かけ、二人をじっと見た。

一人は……どこかで見た顔なんだけど、

思い出せない。

もう一人は金髪の若者だ。

「お前は何で死んだの? 
俺は抗争に巻き込まれちゃってさ」

これが牧野との初対面だった。

「ここにいるという事は……やはり死んでるんですよね」

「なに? あんた死んだこと分からないの? 」

牧野はあきれるように向井を見た。

「君は組関係の人ですか? 」

「違うよ。たまたま通りかかった公園で、
半グレの抗争に巻き込まれて殺されたんだよ」

「その風貌だから、仲間と間違えられたんだね」

それまで黙っていた青年が口を開いた。

「好き勝手に言ってんじゃねえよ。
芸能人のあんたはどうしてここにいるんだよ」

牧野のその言葉に向井は声を上げた。

「あっ!! 」

そうだ。新田涼だ。

向井は人気俳優の顔を思い出した。

「俺はファンに押し倒されて気が付いたらここにいた」

「ファンに殺されたってことか。人気者だな~」

「別に殺されたわけじゃないよ。
君も半グレに囲まれて死ぬなんて人気者だよね」

新田はそういうと小さな笑みを浮かべた。

牧野が言葉を失う姿に、
この俳優は面白いな~と向井も笑った。

三人がそんな話をしている所へ、
五十代くらいの筋肉質の男性が入ってきた。

「おっ、揃ってるね。
じゃあ、これからの君たちの仕事について説明するから」

「仕事!? 」

三人が同時に驚きの声を上げた。

「そうですよ。
君たちは寿命を全うしないで亡くなっているので、
ここで残りの人生分働いていただくことになります」

「えええええ~!! 」

三人の声は廊下まで響き渡った。


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八雲翔
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