【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー65
「冥王の掛け軸」
食堂を一緒に出てきた冥王と向井を見つけて元秀が近づいてきた。
「冥王~さっきから探してたんですよ」
「ん? 私ですか? 」
足を止めた。
「冥王がデザインした掛け軸、出来上がりましたよ」
「おお~仕上がりましたか。見たいです!! 」
嬉しそうな冥王に元秀は笑顔になると、
「工房の方に来ていただけますか? 」
と言った。
「冥王はどんなデザインをお願いされたんですか? 」
向井が聞く。
「まあ、冥王らしい感じですね。一緒にご覧になりますか? 」
元秀が笑いながら言うので向井も気になり、
冥王と並んで工房に向かった。
工房に入ると安達が十朱と一緒にドールハウスを作っていた。
アートンもその隣で楽しそうに、
十朱の作る冥界の景色をみて質問している。
向井達が入ってきたのも気づかないくらいに夢中になっている姿に、
冥王は満足げに眺めていた。
周りを見るとチビたちをはじめ虎獅狼や千乃も、
笑顔で一生懸命ものつくりをしている。
好きなことを楽しんでいる姿はみんな変わらないな。
向井の口元が自然とほころんだ。
ステージの方もかなり進んでいるようで、
工房とギャラリーの空間が広くなっている。
冥王も新しくなる光景を嬉しそうに眺めながら、
元秀のブースへ入っていった。
元秀は矢筈を手に、
掛け軸を壁にかけるとゆっくり開いていった。
見ると迫力のある龍虎の絵が出てきた。
凄い………
向井はその絵に目を奪われたのだが、
何故か邪魔なものが中央にある。
「一つ聞いてもいいですか?
これは冥王がお願いしたデザインなんですよね」
「そうですよ。カッコいいでしょう」
「………どうしても入れなきゃダメだったんですか?
俺には邪魔なものだと思うんですけど。ねえ? 」
向井はそういって元秀を見た。
元秀は笑いをこらえるように口元に拳を当てながら言った。
「龍虎は縁起物ですから図柄としては人気です。
冥王はそれを従えたかったんですよね」
冥王は感慨無量といった様子で、
離れたり左右で眺めたりと体を移動させた。
「なにも中央に、
自分の姿を入れなくてもいいじゃないですか。
せっかくの素晴らしい絵が台無しです」
「まあ、冥界でしか見られない特注ですし、
俺は描かせてもらって楽しかったです」
元秀は腕を組み満足げに話した。
「ほら、分かってくれる人はいるんですよ。
これは私の部屋の床の間に飾るんです。
花村さんに作ってもらった龍の衝立。
あれと合わせてもカッコよすぎです」
「知ってます? 冥王の執務室は、
今やオタク部屋みたいになっているんですよ。
好きなものを飾って並べて一人満足してるんです」
向井が耳打ちした。
「そうなんですか。あはははは」
元秀は可笑しそうに声を上げて笑った。
「とりあえず、
次はずっと描きたかった襖絵を作ろうと思います」
「すいませんね。
冥王のわがままにつき合わせちゃって」
「再生する前にいいお仕事させてもらって楽しかったです」
元秀は満足そうに掛け軸を見て微笑んだ。