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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー64

「冥界食堂」

夜中の悪霊騒ぎで疲れていたからか、
向井は久しぶりに熟睡していた。

目が覚めるとお昼。

アラームもなくのんびりと休憩室に行くと、
牧野と佐久間が気持ちよさそうに寝ていた。

「朝まで食べて飲んでたんだって? 」

早紀が入ってくると入り口にいた向井に声をかけた。

「夜中に騒ぎがあったんでね。
そのあと食堂で軽く食べたんですよ」

「私は呼び出し来なかったから寝てた」

「まあ、いつもの事だから。
ただ丑の刻の怪とかって、
動画サイトの若者が悪霊呼んで騒ぎを大きくしちゃって。
牧野君は寝てたところを起こされたんでおへそを曲げてね」

向井が笑った。

「冥王と牧野はキーホルダーも全種類集められなかったし、
それもあるのかもね」

早紀もケラケラと笑った。

「なに? これから食事? 」

「そう。遅いモーニングを頂きにいってきます」

「今日はパニーニと定食の二つだったよ」

「そうなんだ。どっちにしようかな」

向井はそういうと食堂へ向かった。

食堂に行くとドセが厨房から出てきた。

「今日のメニューはこちらです。
ライスとパン、どちらにします」

メニューを置いて言った。

ここは未だ優香がパティシエとしているほか、
スタッフ二人で切り盛りしているので、
メニューは毎日決められたもののみ。

なので特例はテイクアウトして持って帰ることが多いのだが、
味はグルメの冥王に合わせているからか、
これがまた美味しい。

なので、特例も下界にいない時はここで食べている。

「ライスは白身フライなのか。
じゃあ、それにしよう」

向井が言うと、

「分かりました。そういえば、
昨日のプリンの味どうでした? 」

「ああ、美味しかったですよ。
牧野君も二個食べてましたから」

「あれね。優香さんと一緒に安達君が作ったんですよ」

ドセが笑顔を見せた。

「最近デザート作りが楽しいみたいで、
優香さんに教わってレパートリーも増えてます。
少しずつですけど上達しているので、
優香さんも褒めてましたよ」

「へえ~」

向井も驚いて笑った。

ドセが厨房に戻ると冥王が食堂に入ってきた。

「休憩室に行ったら君はここにいるって言うから」

「何か用ですか? 」

「いや、ただ今日は安達君はお休みだから、
言っておこうと思って」

「聞いてます。今年は落ち着いているそうですね」

「うん。いい兆候です。
今もアートンと工房にいます」

「そうですか」

「私もデザートでも食べようかな」

冥王はそういうと厨房にいるセーズを呼んだ。

「今日はデザート何かありますか? 」

「フルーツタルトが残ってます。
モーニングで皆さん食べられてたので数は少ないですけど」

「ではそれと~
アッサムのミルクティーが飲みたいです」

「はい、分かりました」

セーズは頭を下げて戻っていった。

「お待たせしました」

ドセがやってきて定食を並べてくれた。

「今日のお茶はほうじ茶です。
珈琲が良ければ入れますけど」

「有難う。お茶でいいですよ」

向井はそういうと、
頂きますと手を合わせてから食べ始めた。

「そうだ。一つ聞こうと思ってたんですけど」

「何ですか? 」

冥王がそういったところで、
セーズがデザートを運んできた。

「有難う」

冥王が礼を言うとセーズは厨房に戻っていった。

「で、お話は何でしょう」

冥王がタルトを口に運びながら聞いた。

「実は休憩室にも、
御託宣室と同じようなアメジストドームを置けないかと思って」

「ああ、あれですか。別にいいですよ。ただ、
あの質のいいドームが見つかるかは分かりませんけど」

「緑川さんはまだ再生されていませんよね」

「そういえばいるね~
あちこちで色んな石を集めてはギャラリーに展示してます」

冥王が考え込むように言った。

「アメジストドームを飾ってどうするんですか? 」

「オブジェが目的じゃなくて、
アメジストドームの前に立つと体が軽くなるので、
安達君や特例、死神のメンテにも効果があるんじゃないかと思って」

「なるほど。
向井君に効くという事は冥界にいるものには、
ストレス緩和になりそうですね。
今まで考えたことはありませんでしたけど、
いいかもしれませんね」

「じゃあ、緑川さんに相談してみます。
ただ、価格の問題で、
経理部からクレームが来るかもしれませんけど、
そこは冥王の采配で何とかお願いします」

「え~私ですか。嫌だな……
フェムトンは煩いからなぁ~」

経理担当の死神を思い浮かべて言った。

「あれ? 冥王はここで一番偉いって言ってませんでした?」

向井はそれだけ言うと食事を続けた。

「………」

ム~とアヒル口にする冥王に、

「可愛くないからやめてください」

向井はそういいながらご飯を口に運んだ。


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八雲翔
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