【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー85
「モニター騒ぎ」
「何々? ここはお通夜か? 」
早紀が入ってきた。
「ほら、これ。お土産~
配達でちょっと西方面に行ってたんだよね。
名店のわらび餅だよ」
「食べる食べる~♪ 早紀、お茶淹れて」
「自分で淹れろ」
牧野を見て早紀が冷たく言った。
休憩室にはコンパクトキッチンが付いているので、
簡単なものならここでも作ることが可能だ。
「いいですよ。俺が淹れますから。
早紀ちゃんも飲みますか?
新田君はどうする? 」
「だったら、緑茶淹れましょうか」
新田が向井に近づくと棚から急須を取り出した。
「いいね~
いい男が淹れてくれたお茶が飲めるなんて、
目の保養~」
早紀もソファーに座ると、
箱からわらび餅を取り出しテーブルに置いた。
「早紀が男に振られた理由が見えたな」
「牧野に女がいない理由も見えたな」
「なんだと~」
「なによ。やる気?」
向井達が二人のやり取りを笑いながら見てると、
田所が入ってきた。
「賑やかでいいなぁ~」
「いいところに来ましたね。
早紀ちゃんがお土産を持ってきたので、
お茶を淹れてるんですけど飲みます? 」
向井が聞いた。
「飲むよ~食べるよ~」
田所が笑った。
「君たちが来てくれて、
ここも活気にあふれて、
俺達も休憩室にいるのが楽しくなったよ」
田所はお茶の入った湯飲みのトレイを手に、
牧野達のいるソファーに歩いて行った。
「そういえば俺達が来る前は、
休憩室に特例メンバーがいることも、
少なかったって聞きました」
向井が湯呑を新田に手渡した。
「そうなんだ」
「多分、牧野君のおかげなのかな。
彼が一人いるだけで、
何人分も明るくしてくれるじゃないですか」
「確かに」
二人は楽しそうに、
和菓子を食べながら騒いでいる牧野を見て笑った。
それから数日後―――
特別室から戻り休憩室に行くと、
入口のところでエナトと牧野が何やら話し込んでいた。
「だからさ、見てよ。あれなのよ」
牧野が休憩室の室内を指さして説明していた。
「俺も見たい番組あるし。
何とか大型モニター入れて欲しいんだよね」
「安達君のあの様子じゃ、離れそうもないですね」
エナトも苦笑すると、
「一応冥王に話して、それから……
とりあえず二、三台用意すればいいかな」
「そうして、お願い」
牧野が言った。
「どうしたんですか? 」
「あっ、向井」
エナトが去ると牧野がため息まじりに室内を指さした。
休憩室を除くと、
安達が大画面の前でじっとアニメを見ている。
「彼はアニメが好きなんですね」
「好きなのはいいんだけど、
俺達が他の番組を見たいって言うと睨むんだよね。
何か占拠されちゃって、
それでモニターを増やしてほしいって、
死神課に頼んだんだ」
「ふぅん……」
安達のことは冥王から少し説明は受けたが、
詳しいことは言いたくないのか冥王も口を濁していた。
「あいつ、ちょっと変だよね。
ここに来た時もTVは知ってたけど、
アニメを見て驚いてたもん」
向井も安達と初めて会った時のことを思い返していた。
――――――――
「君が安達君? 」
向井は休憩室で一人座っていた青年に声をかけた。
冥王から話を聞いて、
会うことができたのは三日目だった。
確か十六歳と聞いたが、見た目はかなり幼い。
小学生………中学生くらいにしか見えない。
鋭い目つきも、
よく見るとおびえているような苦しそうな印象だ。
そういえば冥王が、
「彼は君達とは少し違うところがあって、
それで額の所にリングを付けています。
まだ仮のものなので、
もう少し開発されたリングが出来上がれば、
印象も変わってくると思います。
君達の思う普通の生活を送ったことがないので、
気長に付き合ってください」
安達君は高校生だと言っていたが、
う~~~~ん、少年にしか見えない彼と、
どうやって付き合えばいいんだろう。
今はリモートが通常になっているので、
学校に通うのは無償化対象の中学までだ。
無償化になっても子供が増えないこともあり、
学校数が減り、
高校からはリモート教育が多くなっていた。
安達君はどんな家庭環境で育ってきたんだろう。
そんな事を考えていると牧野と新田がやってきた。
向井の近くで足を止めると、安達に視線をやった。
「あいつ誰? 」
「もしかして、彼が安達君? 」
新田の言葉に牧野は驚くと安達のそばに歩いて行った。
「こいつ子供じゃん」
そういって向井達の方を振り返ると続けて、
「お前幾つ? 」
と聞いた。
「………」
安達が怒ったように睨む。
「安達君は十六歳ですよ」
「へえ~小さいな」
「……」
「でも、俺から見たらガキだね」
牧野はそういうとTVを付けた。
「俺達から見たら牧野君もガキですよね」
新田は笑いながら言うと向井を見た。
俳優時代はクールだと言われていた新田の印象も、
冥界にきて随分変わった。
本人はどう思っているのかは分からないが、
向井は画面の中でしか知らないので親しみを感じでいた。
牧野がリモコンを手にザッピングしていると、
あるアニメの画面で安達が急に声を上げた。
「今の何? 漫画が動いてる」
「えっ? 」
三人が驚いていると牧野がそのアニメに番組を切り替えた。
「凄い……」
表情が分かりにくい安達の顔が笑顔になった。
「なに? お前アニメ知らないの? 」
「知らない。これって動く漫画? 」
安達はそういうと、
画面に惹きつけられるように魅入っていた。
「笑うと可愛いね」
新田が驚く顔をしてから笑顔になった。
「ねえ、こいつって何者? ちょっと変じゃない? 」
牧野はそういうと、
怪訝そうに向井達のところに歩いてきた。