[ブロードウェイ感想] Hadestown
概要
日本にそのうち上陸しそうでまだ上陸していないイチ押し作品。ギリシャ神話のハデス王とペルセフォネ、エウリュディケとオルフェウスの2組のカップルのラブストーリーが軸になったやや比喩的なミュージカル。地下の世界/冥界が化石燃料と貨幣経済がモチーフの工場となっている。よく回転するインダストリアルなテイストの小さめセットが舞台で、ミュージシャンも物語に参加はしないがその場に居合わせる。冒頭からヘルメスのMCのような狂言回しで進められ、人物紹介、ミュージシャン紹介が入るジャズとポップスの音楽ライブのような舞台。つまり「突然歌い出したぞ」ではなく「突然セリフしゃべりだしたぞ」パターン。シンガーソングライターのAnaïs Mitchellの初ミュージカル作品で、トニー賞8部門受賞、ベストミュージカルシアターアルバム部門グラミー賞受賞。
好きなところ
音楽がとにかくキャッチ-でカッコいい。劇中でも思わずリズムを一緒に打ちたくなるくらいノリがよく、劇場を出るころには数曲サビを口ずさむくらいになっている。歌詞も美しく、環境問題に触れているのも粋。特に入りのギターがたまらない”When the Chips are Down”は、1年前に観劇して以来目覚ましアラームメロディに使っている。
Fate3人組。コーラス隊のようであり、不穏な風のような衣装をはためかせながら登場人物を煽る感じが絵画的で美しく、場面を説明する重要な役割を担っている。Apple Storeに「If the Fates Allow: a HADESTOWN holiday album」というFateのオリジナルキャストがメインでカバーしたクリスマスソングのアルバムがあり、特に前に進まずに踊っているようなSleigh Rideが最高。
Wikipediaでずばり気候変動と解説されているとおり、シンプルなラブストーリーで終わらない渋いテーマ。エウリュディケとオルフェウスの話なのでハッピーエンドではないし、インダストリアルワールドと完全対立するわけでもない。世界は良い方にきっと変えられる、そのために頑張る皆に祝杯を。(初回観劇時は冥界=工場設定がだたの風刺エッセンスと軽く見ており、このカーテンコールのメッセージで自分の浅い理解に気付いた)
一途なハデス王と酔っ払いペルセフォネがとことん可愛い。若者カップルの歌は割と抽象的なので、彼らのセリフ・歌が物語のテーマの理解にかなり大事。「夫婦の間で見失っていた愛」と「人類として見失ってきたもの」とが重なって表現された二人。
キャストの個性がかなり生かせる余地があるキャラクターとストーリーの余地、ライブ感。キャストがどんどん変わっていくので変わる度に観たくなる。沼である。エウリュディケはオリジナルEva Noblezadaが迷える孤独なLittle Bird、Solea Pfeifferは生命力がある等身大Little girlの可愛さ、という方向性の違いを楽しめて満足。歌声もルックスもReeve Carneyと全く違うタイプのJordan Fisherのオルフェウスがとにかく観たい。
アイコンとなっているお花が出てくるところ。何度見てもハッとする。客席が一斉にハッとする感じもすごくいい。
これから観劇する方へ
よりライブっぽい一体感を得られて、エウリュディケ&オルフェウスカップルに感情移入しやすいのは1階席。どちらかというと下手がヘルメス、上手がオルフェウスに近い。ハデス&ペルセフォネを1秒たりとも見逃すまい、セットの作りこみの美しさを味わいたい、というニーズには2階席がおすすめです。
Walter Kerr Theater は小さい劇場ながら天井の装飾などがとてもかわいいです。2回目で初めて気づきました。
グッズ売り場は1階席2階席ともにあるので近い方で。きっとCDが欲しくなります。ちなみにパンフレットは情報量なさすぎなのであまりお勧めしません。スチールのマグカップを買っておいてカーテンコールでキャストと一緒に掲げる、というのはもっと流行って欲しい(見渡す限りほぼいないのでなかなか勇気が出ない)。
やや早い反応や宝塚的な絶妙なタイミングの拍手、音楽にノリノリのファン勢を嫌いにならないでやってください。どうか。
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