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ブルー・イン・グリーン島

ドーム状の空に囲われた世界、その海の遠く、南の水平線に幻氷が浮かび、その手まえをタンク船が右へ動いている。こちらはといえば真っ白なボート、男女二人が乗っていた

真っ白の上、蝋を引いたような肌を持つ女は鍵盤にさわり、弾くことは、けれどもまだなくて、一方、男は舳先で撮影をしていた。ブルー・イン・グリーンな航路をいく

緑にとけ込む青の道を南下する。到着予定もブルー・イン・グリーン島、ドーム状の空はまだあかるい水色で世界を包んでいるが、やがて色濃く群青に近づいていく

そのあわいの刻限、女がおもむろに南のゆくえに浮かぶ幻氷を指さした。男はそちらへ八ミリカメラを向けた。空を区切る水平線。レンズのなかで海の蜃気楼がゆれる

ゆれているのはあちら側であって、こちら側でないとは限らない。ただドーム状の空はゆるぎないまま色彩を濃くしていく。ゆれはやがて落ち着き、粒ほどにブルー・イン・グリーン島が見えてくる

粒から孤島へと拡大されたブルー・イン・グリーン島はこちらの白いボートを迎え入れた。港の底にある青と緑の色彩が波とゆれ、小魚の群れがとおっては翻る、を、くりかえす。男はなおフィルムを廻す

島の住人はみな翁、若者はおらず、それらの老いたる目は色彩を失わないまま、男と女を見て微笑んだ。こちらが微笑みかえす。港に置かれた鍵盤が鳴り、歓迎されているらしいことが何よりだと男。すると女は鍵盤のまえに座った


はじまりもなく続いていた水柱のなか 浮遊感あるも確かな水中の磁場 音階の階梯 深海の海底 花々さえ華やかにゆれたゆたういま みずからを相手にと 水柱は回転して 色彩は変容するものの無きゴール ゆく先は永遠だがいつしかふと消える

と女は演奏を終えた


ブルー・イン・グリーン島の上のドーム状の大気にいて
うるわしい星の夜まで男女は待機して
これまでに関して
これからに際して
色彩の妙なる響きで
ゆくさきをうらなって
新たな調べを味わおうと二人
彼方をなお調べよと探る

フィルムをそのように廻す男の片手を、女は目を瞑りながら握っている



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