ルリは色硝子の目で
車窓をとおして線路をながめていたルリは、駅に到着と同時に我にかえった。美術館に、硝子アートを見にいくところだった。慎重にコンタクトレンズをミラーで確認して、あわてて下車した。
ギャラリーの入口、群青の服の彼は待っていた。挨拶を交し、二人は歩き出す。ルリって名前も硝子だね、という彼に、ラピスラズリのことでもあるけどね、ウルトラマリンブルーの、とルリがこたえる。天井は板硝子の七色、一周してとなりのブースに入った。
となりの硝子工場では、色彩の半透明がつくられては積み重なる、を、くりかえしていた。繊細な反復だね、透きとおってる。眼鏡はあれでつくれるかしら。どうだろう、つくれたらプレゼントするのにな。
鑑賞を終えた二人は、ドアをあけて外に出た。夕暮れのドーム状の上空に、弧を描きながら二層にかさなる紫とパープル、その下に駐車場の黄色、ならぶ車のマニキュア色彩たち、誘われて乗車した彼の車もマニキュア色の濃紺、駐車場から出た。
北上していた。黄昏の色が神様の色に見える。ハンドルに手を乗せた彼にそれをつたえると、神様なら見たことがあると彼がいった。何色の神様? 色じゃなかったかな。アクセルがなおふまれ、加速する 高速道路 オーバーテイク 北上の光景 覆われていく 暗くなってきたら 上空に星がある スモッグの彼方 またたいている
さらに加速する 空に印がある 北極星はあれかな 夜のなかにいる 北斗七星なら いまそこに見えている いやまし降り注ぐ フロント硝子に導かれ いま極まりかける 億千のひかり 目のおめかし コンタクトレンズの内側 瞳にありし 満ちかけた色彩の七色×α
これから彼の両親と顔をあわせるとなると、緊張はまぬかれない。走行中、けれどもルリは繰り広げられる硝子状の彩りに没入し、目をあけたまま、まどろんでいた。