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遅読のバウンティハンター

手がかりはここに絞られたな、とグリーンは手帖を置いた。ダイナーのなかにいる彼はチリチキンを齧って、今度は持ち込んだ新聞をめくった。運勢は最高に近いとある。

新聞をたたんでカウンターに置き、手帖をふたたび手にした。九人、いや、グリーンを入れた一〇人の客、それから調理人とウェイトレスの二人がいる店内。バウンティハントの対象の、やつの電話番号が書かれた手帖を見、三回コールして切ってやった。やつはここに誘導される。

背後で爆音がして、ウェイトレスの悲鳴が上がり、ふりむいたときには硝子が粉々になっていた。店内のカウンターに無人のブルドーザーがカウンターに突っ込んで、エンジンが止まった。ブルドーザーは擬死のように動かなくなった。

無傷で済んだ客たちのどよめきのなか、調理人が電話を握ってカウンターの外に出てきたかと思うとブルドーザーに乗り込み、馴れた動作で店外へとバックさせ、歩道の外側に駐車した。グリーン以外の客どもが歓声を上げる。

もうすぐ警察がやってくる。やつが姿を現さないことも予想に入れてあった。グリーンは、しばらくの安全を確認して、カウンターに向き直り、残りのチリチキンを囓り、さてどうしたものかと、コロナの瓶にライムを絞り込んだ。

さっきの新聞に手を伸ばし、もう一度見た。ちりとりで硝子を集めていたウェイトレスがひらかれたその紙面を覗き見て、眉をひそめた。

そうなんだ、最高に近い運勢の次の日は、えてして最高の運勢となるはずなんだが、とグリーンが肩をすくめる。

どうして今日の新聞を読まないの? それ、昨日のじゃない、とウェイトレスがいった。

読み終えるのに時間がかかってしまうからだ。グリーンはそうこたえた。

今日の記事は明日には目をとおせるだろうか、明日の記事は明後日には目をとおせるだろうか、こんな様だから、起こった事件の記事を読むのがどんどん先延ばしになってしまう。速読というものを習おうかとかんがえたこともあった。

したがってグリーンは、情報は記事ではなく、いつも手帖片手に通話か足で得ることにしていた。記事は時間つぶしの読書のうちに入れてある。この日もそうだった。



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