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ふくれ

朝、目が覚めると、冷たい空気のせいで顔が痛い。スマホで気温をチェックすると、マイナス4.5℃と表示されていた。その後も布団から出ることができず、仕方がないので、枕元に置いてあった本の続きを読むことにする。

いい加減、起きないと。意を決して布団から出て、ストーブとこたつをつける。急いで着替えて、やかんをストーブにかける。仕事もひと段落したので、今日はなにをしよう。こたつに座ってしばらく本の続きを読み、朝食に
「ふくれ」をつくることにした。

ふくれは、鹿児島や熊本など、南九州の郷土菓子。大きな蒸し菓子だ。重曹と酢を入れて膨らますのが特徴で、北陸地方の「がんづき」とよく似ている。卵も黒糖も小麦粉も、材料はすべて揃っている。牛乳の代わりには、豆乳を使おう。

冷え切った台所に立ち、手を洗おうと蛇口を捻ったら、水が出てこない。どうやら水道管が凍ってしまったようだ。もったいないけれど、山から汲んできておいた水で手を洗い、ふくれをつくる。

卵と黒糖を合わせ、ハチミツ、豆乳、重曹、酢を加える。振るった小麦粉を入れてさっくりと混ぜ、今日はレーズンを加えて、蒸し器で蒸す。蒸すための水にも、貴重な山水を使った。

蒸している間に、フローリングワイパーで寝室と廊下をさっと拭き上げ、お茶の用意をする。山の水で淹れたお茶は、まろやかで美味しい。

今朝、読み終えたのは『灰色のミツバチ』。ロシアの暮らしぶりが伝わる、良質の小説。分厚いけれど、スラスラと読めてしまう。本書の訳者である沼野恭子さんは、ほかにもわたしの好きなロシア作家の本を多く訳している方。海外の小説は、翻訳者で選ぶことも増えた。

ふくれが蒸し上がり、少しだけ熱を落ち着かせて、1/4を皿に切り分ける。甘さはかなり控えたけれど、レーズンの甘みがあるのでちょうど良い。水筒に入れておいたハーブティーと一緒に、あっという間に食べてしまう。

残りはほんのり温かいうちにラップでくるんでおく。きっと、今日のうちにあと1/4切れは食べるだろうから、残りは明日の朝ごはんに。

ふくれの具には、さつまいもや胡桃なども合う。オーブンで焼き上げる菓子はどっしりと重くなりがちだけど、蒸し菓子はふんわりと軽い。朝には、軽い菓子が体にやさしい。