学び直し
小さい頃から、海外に対する憧れが人一倍強かった。九州の海辺の田舎町で育ち、周りには「外国」という言葉を口にする人さえ、いなかったように思う。両親に「いつか外国に留学する」と宣言しても、「そんな、夢のようなことばかり言って」と返されるだけだった。実際、両親には大きな借金もあり家計は苦しく、日々の暮らしをどうやってやりくりするかで精一杯だった。
そんな状況でも、両親は子どもがやりたいことを、ほぼやらせてくれた。それにはとても感謝している。大学に進みたいと話したときも、「がんばりなさい」と応援してくれた。公立の交換留学プログラムがある大学を選び、奨学金を得たとはいえ、授業料はもちろん、一人暮らしの生活費も捻出してくれた。
その後はイギリスへ留学したり、外資の会社で英語を使う仕事についたりと、英語に触れる日々を過ごした。けれど、英語はあくまで手段であり、目的ではない。語学を生かして「なにをするか」が重要だということに遅ればせながら気づき、その会社を後にした。ソフトウェアの世界にまったく関心が持てず、心が疲れていくのを感じていたから。
料理の世界へ足を踏み入れ、英語を話す機会がまったくなくなった。10年ほどのブランクがあり、久しぶりに海外へ旅に出たとき、思ったように言葉が出てこず、もどかしい思いをした。「英語を話せるようになろう」と、学び直しをすることに決めた。
まずはお金をかけずに、自分なりのやり方で。とにかく、英語に触れる時間を増やすことが必要。英語の音をたくさん聴く、英語の文章を読む、生活で使える語彙や表現を増やす、自分のことを英語で説明する。
話し相手がいなくても、独り言で十分、英語力は身につくと信じている。時間を見つけては、これらを地道に繰り返す。ただ、それだけ。いまの時代、Youtubeなどの動画配信の教材を活用できるのもありがたい。好きな映画を字幕なしで観ることは、もはや楽しすぎて勉強とも思えない。
そして少しずつ、英語の勘が戻ってきているのがわかる。まずは1年、集中的にやってみる。試験で点数を取るためではなく、コミュニケーションを豊かにするために学び直す。
今年の抱負は、英語を学び直すことと、「やりたくないことはやらない」こと。後者は「やりたいことをやる」のとは、まったく違う。たとえ些細なことであっても、心が向かないことをやり続けると、澱(おり)のようなものが自分の中に、どんどん溜まっていく。そして、いつの日か、それらをすでに取り除くことができないことに気づいてしまう。
一年後、どのように変化しているかが楽しみだ。