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ちらし寿司

毎年、夏に食欲が落ちることはほとんどないが、今年は食が進まない。そうめんにうどん、冷奴、焼きナス、冷やしトマト、オクラなどさっぱりしたものばかり体が欲しがり、甘いものも受け付けない。エアコンのない台所は蒸し暑く、午前中だというのにたっぷりと汗をかく。なるべく火を使わず、短時間で食事の用意をしたい。

「さあ、何が食べたい?」と(自分に)聞いてみると、まず思い浮かんだのがちらし寿司だった。ちらし寿司は年に数回つくる。寿司は具材さえ用意すれば混ぜ合わせるだけと簡単。さっそく近くの産直へ食材の買い出しに出て、きゅうりや茗荷、れんこんなどを買ってくる。

きゅうりは薄切りにして塩をまぶし、干し椎茸は甘辛く炊いておく。れんこんは酢を入れた湯にさっとくぐらせ、甘酢に漬け置く。硬めに湯がいたオクラは、星形の断面が見えるように薄切りにする。

あとは炊き立ての米で酢飯をつくり、具を混ぜ込むだけ。最後に大葉の千切りと刻んだ茗荷、炒った白胡麻を散らす。寿司酢には2年前に漬けた梅干しの白梅酢を使う。米にほんのりと、爽やかな香りが移るのが気に入っている。

子どもの頃、母がつくってくれたちらし寿司は、ミツカンの「五目ちらしの素」を使ったものだった。炊き立てのご飯に素を混ぜ込み、錦糸卵をのせたら完成。当時、我が家には寿司桶がなかったので、黄色いプラスチック製の大きなボウルで酢飯をつくっていた。

炊き立ての米を釜からボウルへひっくり返し、寿司酢を加え、うちわで仰ぎながら熱を取る。夏場は扇風機の風を当てながら。でも如何せん、プラスチックのボウルなので水分がうまく飛びきれず、若干べちゃっとなってしまうのは仕方がない。濃くしっかりとした味付は子ども受けがよく、甘めの錦糸卵は弟と取り合いになった。

寿司はなるべく、その日に食べ切る分だけつくるのがよい。残った寿司を冷蔵庫に入れておくと、翌日には米が硬くなる。母は硬くなった寿司を電子レンジで温め、「蒸し寿司にすると美味しい」と言って食べていた。その姿が記憶に残っていて、いまでは私も、寿司が残ったときには蒸籠で蒸し直して食べている。

それにしても、今年は野菜の値上がりにすっかり閉口している。近くの産直では例年、時期のきゅうりや茗荷、ピーマンなどは一袋100円ほどで出回っているが、今年は200円、300円と値が張る。隣の買い物客から「今夜は何にします?」と気さくに話しかけられ、ちらし寿司と答えると、「うちも久しぶりに混ぜ寿司にしようかな」と返ってきた。