見出し画像

あの味に会いにいく【増補改訂版レシピ付き】


かっこよさげなタイトルをつけたが、杏仁豆腐の話である。


そうです。中華料理店やラーメン屋さんによくある、独特な風味を持つ定番デザート”杏仁豆腐”。

苦手って人も多いけど、わたしは好き。クラッシュしてボトルに詰めて常飲したいくらい大好き。愛してやまない。


だから数年前のあの日も、杏仁豆腐好きとしての義務感に駆られて注文したに過ぎなかった。旅先でふらりと立ち寄ったラーメン店のメニューの端っこに書かれた「杏仁豆腐」の4文字。正直期待なんてしていなかった。

よく晴れた春の一日、長袖を着ていると少し汗ばむような陽気だった。朝ごはんを軽めに済ませ、観光を楽しむこと数時間。腹の虫が騒ぎ出す。

海の近い国道沿いに地元の味が売りらしいラーメン屋さんを発見し、喜び勇んで暖簾をくぐった。油っぽいテカリの目立つ店内が食欲を掻き立て、すぐにメニューとにらめっこする。

熱気に包まれた店内で堪能するラーメンはとても美味しかった。透明な醤油スープと縮れた細麺がよく絡んで、お腹をぺこぺこにしていたわたしは一気に平らげる。お冷を飲み干すと無意識に「ぷはっ」と声が漏れた。

程よくお腹が満たされたところで運ばれてくる、キンと冷えたご褒美のようなデザート。手ぬぐいを頭に巻いた店主の無骨な手がちょっと不似合いで、どんな杏仁豆腐だろうと想像する。

見た目はスタンダードなものだった。透明な器に盛られた滑らかな白に独特の中華な香り、上には真っ赤なクコの実が乗っている。お値段は100円こっきりとお手頃。

いいね、いいね。こういうのすき。

そう思いつつも、やっぱりわたしはそれほど期待を寄せていなかった。だってここはラーメン屋さんだもの。メインはあくまでラーメンであって杏仁豆腐じゃない。本職じゃないメニューに完璧を求めすぎるのは酷というものだから。


そう思ってたわたし、マジでえらい目に合う5秒前。


そうです、えらい目に合ったんです。人生で一番美味しい杏仁豆腐でした。

あの独特な風味を好む者にはたまらない、濃厚でこってりとした味わい。キンキンに冷えているのに、滑らかで溶けるような舌触り。アクセントのクコの実までさっぱりと美味しく頂ける始末。あぁ、とろけてしまいそう。

餃子の醤油用の小皿にちょこっと乗せたくらいのボリューム感だったから、正直に言えば10個くらいはペロッといけた。わたしが石油王だったらあのお店に莫大な財産のすべてを投資したかもしれない。

馬に人参、七屋に杏仁豆腐、きびだんごを与えられた犬のようにどこまでもお供してしまいそう。わたしの舌はすっかりあの味の虜になった。


だけれど悲しいかな、そのお店は旅行先でたまたま立ち寄っただけ。とても通えるような場所じゃないし、のちに店名をネットで検索したら出てこなかった。おまけに方向音痴のだからどこにあったお店かすらも曖昧だ。トホホ。

だがマリー・アントワネットは言った。パンがないならケーキを食べればいいじゃない。お店に行けないなら、自分で作ればいいじゃない!

ということで研究を重ねた結果、めちゃめちゃ簡単に極濃杏仁豆腐が作れるようになったので、レシピを置いておきます。気になる方は作ってみてね。


1、市販の杏仁豆腐の素を買う。(おすすめは寒天ではなくゼラチン使用のもの。寒天で作るとつるんとしたのどごし、ゼラチンで作るとなめらか食感と違いが出ます。要注意⚠)

2、特濃牛乳を買う。(これが一番のポイント。これだけ押さえておけばほぼ勝ち確。「極濃がいい!」という強者は+αで生クリームを購入すること)

3、購入した杏仁豆腐の素のレシピ欄に従って作る。ただし「熱湯使用」はすべて牛乳に変えること。そして牛乳の使用量を100ml程度減らす。(所感ですが、大体のレシピが500ml程度の液体を使用するので、単純に減らすと味が濃ゆくなる。ちなみに牛乳を温める時にはレンジの牛乳温めを2回やると丁度良くなります。また生クリームを購入した方は、牛乳との割合を1(生クリーム):2(牛乳)くらいにして混ぜます)

4、ワクワクしながら待つ。大抵は2時間程度冷やして食べるみたいだけど、1時間位で試しに食べてみて。常温より少し冷たいくらいの温度だと甘さが引き立つ。最高。(もしも生クリームがあまったら泡立てて杏仁豆腐に乗せるとグッド。さらに高級感が増し増しです)


これが作れるようになったら、大抵の杏仁豆腐好きの胃袋はつかめます。

失敗しても大丈夫、ちょっとザラつきがあったりなめらかさが足りなくても味が濃ゆいから美味しく頂けます。もはやそういう食べ物だと思って食したら良いのです。


わたしの舌を虜にしたあの杏仁豆腐のお店に、もしも通えたならきっと手放しで喜ぶだろう。

美味しい醤油ラーメンを頂いたあと、胃袋の限界まで杏仁豆腐を注文する。テーブルいっぱいに並んだ小皿に小躍りをしながら、ひとつずつ口に運んでうっとりする。無理を承知で店長さんにレシピを尋ねたりするかもしれない。

だけどそれができていたら、近所のスーパーを回って杏仁豆腐の素を何種類も集めることも、自宅のボール3つを杏仁豆腐でいっぱいにすることもなかったと思う。もちろん、牛乳と生クリームの配分を考えることも、まだ生温かい状態を口にすることも。


あ、これは、もしかしたら幸せかも。


そう思いながら、ラーメン店に立ち寄れば一杯のラーメンと食後のデザートを頼むし、家ではボールに温かい牛乳を注いでゆっくりとかき混ぜている。




いいなと思ったら応援しよう!

七屋 糸
作品を閲覧していただき、ありがとうございました! サポートしていただいた分は活動費、もしくはチョコレート買います。

この記事が参加している募集