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七屋 糸
2021年7月7日 12:00
吉野さんが赤信号の横断歩道をずいずい渡っていく。 斜め後ろで声をかけるか迷っていたわたしは呆然と彼の背中を見送るしかなかった。そのせいで青信号を見送ったことも終電を逃したことも言えなかったし、それがきっかけであなたに恋をしましたとも、もちろん言えなかった。_「吉野さんっていかにも真面目で仕事人間で、とっつきにくい感じでしょ。だから髪をぼさぼさにしてヨレヨレのシャツ着せたら絶対周り
2020年6月8日 15:50
※ホラー短編です。あまり明るい内容ではないので、気分の優れない方はご注意ください。✳︎✳︎✳︎静かすぎると、どこからともなく金属を撫でるような音が聞こえてくるよね。Fくんは言った。四畳半の手狭な部屋は、ぼくとFくんが寛ぐと足の踏み場もなくなってしまう。くたびれたクッションに乗せた腰は、伸ばすとギリギリと音を立ててしなった。乱雑に積まれた漫画の塔は今にも崩れそうで、触れないように