三宅香帆「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」
・本書は、文芸評論家の著者が、日本の近代以降の労働史と読書史を並べて俯瞰することによって、「歴史上、日本人はどうやって働きながら本を読んできたのか?そしてなぜ現代の私たちは、働きながら本を読むことに困難を感じているのか?」という問いについて考えた1冊。
・著者は、IT企業に就職後、「週に5日間毎日9時半から20時過ぎまで会社にいる」というハードな生活を送っていた。
・著者は、子どもの頃から本が好きで、好きな本をたくさん買うために、就職したが、就職後は全然本を読まない日々を過ごしていたことに気づく。
・本を読む時間はあったのだが、電車の移動中や、夜寝る前の自由時間は、SNSやYouTubeにぼうっと眺める時間に当てていた。
・著者が社会人1年目にそんな自分にショックを受け、本をじっくり読みたいがために、その3年半後に会社をやめ、現在は批評家として、本や漫画の解説や評論を書く仕事に就いている。
・著者にとっての「本を読むこと」とは、あなたにとっての「仕事と両立させたい、仕事以外の時間」であり、読書が人生に不可欠な「文化」なのだ。
・「生活できるお金は稼ぎたいし、文化的な生活を送りたい」のは、誰もが思うことだが、週5フルタイムで出社していると、それを叶えることは、想像以上に難しい。
(著者はそれを1年で痛感)
・現代の労働は、労働以外の時間を犠牲にすることで成立している。だからこそ、労働と文化的生活の両立が難しいことに皆が悩んでいるのだ。これは、現代日本を生きる私たちにとって、切実で困難な悩みだ。
※労働と文化を両立できる社会のために、著者はどのように紐解き、考えているのかについては、本書をお読みください。
・本書は、「労働と読書は両立しない?」という序章から始まり、「労働を煽る自己啓発書の誕生-明治時代-」「『教養』が隔てたサラリーマン階級と労働者階級-大正時代-」「戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?-昭和戦前・戦中-」など序章、最終章を含む合計11章で構成されており、
◇社会の格差と読書意欲の関係性
◇「サラリーマン」が登場した際の読書人口はどうなったか
◇司馬遼太郎が70年代のサラリーマンに読まれた理由
◇自己啓発書が誕生した時期とは
◇読者とは〇〇〇である
◇本が読まなくても、インターネットができるのはなぜか?
といった、「なぜ私たちはこんな悩みを抱えているのか」という問いに挑み、読書と労働の歴史から、この2つ(読書・労働)が現代では両立しづらくなる理由について紐解き、「どうすれば労働と読書が両立する社会をつくることができるのか」についての答えを導く内容となっている。
この本を読み終えた時、「なんで自分は会社員をやりながら、毎日1冊本の紹介を3年半以上も続けているのだろう」と自分の日々の頑張りを認め、やるせない気持ちになりました。
早く書評ライターの活動を専業にできるように、ガンガン稼ぎたいと思った1冊でした。
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