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エージェンシー(Agency)の話
長野市で起きたおぞましい通り魔事件の流れで、岐阜市でも同じような事が起こり、我々学校関係者は急きょ、緊急体制を敷くこととなった・・・
通り魔の犯人が捕まっていないとなれば、長野市の犯人が岐阜にやってきたのではないかと考える人もいた、当然の話だ。
私は出張先から指示を出し、校外学習も中止となった。最悪を案じて欠席をした生徒、バスの添乗係の先生達も緊張感の中で一日を過ごした・・・
それがよもや自作自演の事件であったとは・・・
何が理由でそうなったのかは報道されていないが、まったく、迷惑を通り越して、腹立たしい。
つまりは、こういう予期せぬことがいきなり起きる。
パンデミックや、自然災害もそう、
明日何が起きるかわからない日常を我々は生きているのだ。
以前の記事で、「主体性」について書いた。
主体性のある子どもが育てば、面倒をみる親や先生も楽になるという話であったが、このような身の危険に関わる状況になれば、その重要性はさらに高まる。
「釜石の奇跡」という有名な話がある。
これは東日本大震災の時、半日授業で、震災が起きた時にはそれぞれ家庭や友人のところにいた釜石小の小学生たちが、誰の指示もなかったのに、「津波てんでんこ(津波の時は人を待たずにそれぞれで逃げること)」に従い、自分で高台に登り、中には大人の手を引っ張って避難した子もいて、奇跡的に全員が助かったという話だ。
釜石市の教育委員会はそういう地域の文脈にそった学校教育を行っていたらしく、それが多くの子ども達の命を救ったのだ。
今回、私は、自園に出張先から連絡をし、「事件の発生を受けて考えうる対応をしてほしい」そう頼んだ。
何といっても、どのクラスが何をするとか、普段のバスの乗り降りはどうしているかなど、詳細については知らないことも多く、私一人で隅々まで指示を出すことは土台不可能だ。
ありがたいことにうちの先生達は、それぞれの持ち場で何をどう対応するかを即座に考えて体制をしいてくれた。私のような校長がうろうろしているよりも、先生達の方が数倍頼りになる。
ただこれも普段からの訓練だ。リーダーが中央集権的で、「すべては私の指示で」と、マイクロコントロールしていれば、「言われたこと以外はやらない」教師集団になる。
一方で、そういう集団を作るためには、先生達が主体的に動いてうまくいかなかったことにも責任をとる度量と覚悟が必要であるし、ひとりひとりが主体性をもつことの重要性を普段から話しておくことも大切だ。
保育事業のスタートアップで、IoTの技術を使い、「保育士の負担を軽減する」とプロダクトを作っている企業がある。
ボタンのようなデバイスを赤ちゃんの衣類に取り付けておくと、寝返りの様子がわかり、うつ伏せ寝がしばらく続くとタブレットにアラームが鳴るというものや、園児のカバンに取り付けたデバイスと園の門にあるセンサーがやり取りをして、誰が登園したのかが一目でわかるという商品などがある。
我々教育現場の負担を減らそうと考えていただけるのはありがたいことではあるが、うつ伏せ寝検知のそのシステムも、「もしエラーが起きていたら」と思うと、100%安心して依存してはいられない。
いつか静岡で起きた、バス内の園児置き去り事件の園も、登園管理システムを利用していたが、それが役に立っていなかったらしい。
これから先の時代、確かにAIテクノロジーなどが、私たちの日常生活を相当楽にしてくれるのだろう。
期待も膨らむ一方で、テクノロジーに完全に依存し、AIの言うことをうのみにし、私たちが自分の頭や価値観で考えて行動しなくなることは、子ども達や私たち自身の命を時に危険にさらすのではないか。
IB教育では主体性のことをAgency(エージェンシー)と呼び、初等教育においては、生徒の"Voice, Choice, Ownership"を大切にする。
主体性をどう育てるか、それには、普段からすべてを大人が決めてやらせるのではなく、子どもの声を聞き(Voice)、選択をさせ(Choice)、自分ごととして考えさせる(Ownership)、を心掛ける。
特に幼稚園児など、年齢が小さくなればなるほど、大人がしてやらなくてはいけないことが多いのも確かであるが、されど、子どもなりに考えさせる習慣は大切で、それは時に、学力などよりうんと大切な、自らの大切な命を守ることを教えることに他ならない。
Agencyのある生徒、Agencyのある教師集団。
学校教育において一番大切なことではないか。
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