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推しと付き合ってみて、自分を愛することを学んだ話。

刺激のない毎日、
何か新しいことを求めていたが、
何もできない自分があまり好きではなかった。
そして、孤独や一人が嫌い。
そんな寂しさに向き合えないことが嫌だった。

新学期、新しい恋を求めて、
私は、クラスに推しを作ることにした。

学校に推しがいる日々は
なんとも楽しい毎日だった。
話したことも、目を合わせたことも
なかったが遠くから
彼を眺めることが密かに毎日の楽しみだった。

ある時、私と彼の共通の友達を通して、
彼と話すことに成功した。
交わした会話は少しだけだったが、
笑顔が可愛い彼の姿にときめいた。

それから、帰り道が同じになる日があり、
お互いの自己紹介をしたり、
何気のない会話で盛り上がった。

電話番号をもらい、
予想外の展開が始まった。

彼に、デートに誘われた時には
まるで子供のようにはしゃいで喜んだ。
初デートはアイススケート
思っていたよりもユーモア溢れる人で
彼の魅了にどんどん惹かれた。

そこから、私たちは、
何度もデートを重ねて
気づいた時には推しではなく
彼になっていた。

あまりにも違和感のない推しが彼になる瞬間
トキメキと安心感で包まれた。

彼は不思議な人だった。
毎日携帯は使わず、
代わりに本を読むような人。
SNSは何もしていない

ヨガやサーフィンを趣味としていた
大学の学校終わりには水泳で運動をしていた。

人と話すのは上手だが、決して友達は多くなく、
一人の時間を楽しめるタイプだ。

ベジタリアンで、料理はほぼ毎日、
イタリアンが得意料理だった。
二人で麺からパスタを作ることもあった。

ピクニックに行こうと、
パンとフルーツを持ってきてくれて
二人で夕陽を見たりもした。

彼は、私と付き合いたての頃から
いつも私に、自分を愛するようにと伝えてくれた。

今までの恋愛は相手に愛を求めることの方が
多かった私にとって、自分を大切に、愛すると言うことを
理解するまでには時間がかかったが、
毎日の日常が彩りに変わった。
彼のロマンチックでユニークな性格が
幸せを運んでくれた。

そんな彼は時々不思議なことを言う。
お城をプレゼントするね
君は本当に素敵な人だよ

そんなふうにいってくれる彼が
私は大好きだった。

ただ、どこかで夢見がちな彼に対して
違和感を持った。

私が彼の部屋で寒いというと、
クローゼットから女性用の服が出てきた。
どうして女性用の服があるの?
彼は、道で拾ってきたと答えた。
私が必死に、
嫌な気持ちを誤魔化そうとすると、
大丈夫だよ、洗ったからね!
君に似合うと思ったの。
そう伝えられた。

普通の人なら、女の影を想像するのかもしれない。
ただ、私は知っていた。
彼は本当に私の喜ぶ顔が見たくて、
道にある洋服を拾ってきてくれたことを。

そのぐらい彼は変わり者だった。

彼にはお金があまりなかった。
そこに不満はなかったが、
一緒にいる未来は見えないような気がした。

私の本心を伝えることが、
彼を悲しませることだと思った。

捨てた服なんていらない
その一言は、彼の期待に応えられない自分を
彼に真正面から見せると言うことだ。

私たちは、約一年、
一度も喧嘩をしたことがなかった。

心のどこかで、お互い
いい人を演じていることを知っていた。

決して、依存する関係性ではないが、
偽った自分がいることが心苦しかった。

本音が言えないことは、
私にとって少し苦しかった。
そして、本音を伝える時
彼が傷ついていてしまうのなら、
黙っている方がいいと言い聞かせた。

彼は、ある時、私に聞いてきた。
恋するように付き合うのか
結婚を見据えて恋愛をするのか

私は少し戸惑った。
彼との輝かしい時の流れは、
私にとってはまるでおとぎ話のような
ときめく恋の魔法だった。

しかし、結婚や将来のことを考えて
付き合えていたわけではなかった。
まだ、学生の私にとって、
将来は結婚、今は付き合おう
その言葉が引っかかった。
どうしても本音が言えてないことが
気になっていた。

そして、彼は私のことを愛してくれていることを
知っていた。

私と彼の愛の形と重さに違いを感じた。

その彼の思いが私にとって
少しずつ負担になっていった。

彼がこんなにも愛してくれているのに、
私は同じぐらい返せないことが辛かった。
彼は、僕と同じぐらい好きでいなくてもいいよと
私に伝えてくれるが、彼が同時に傷ついている。

彼は、私にいい彼氏でいてくれようとする。
そして、私もいつも幸せいっぱいで、
笑顔あふれるいい彼女と言う期待に応える。

それでは、ありのままのお互いの姿を
見せられないと感じた。

夢の中で恋をする感覚だった。

夢から覚める時、私は、きっと、
頑張っていたことに気づくことを知っていた。

そして、彼もまた、
いい人ではない彼自身を押し殺して、
私と接してくれていたんだと思う。

そんな状況が耐えられなくなって、
彼に思う気持ちを伝えた。

彼は、話せなくなるぐらい泣いていた。
心が痛んだ。

私は、彼から
自分の寂しさと向き合うことを学んだ。

寂しい時に、拗ねるのでもなく
怒るのでもなく、ただ受け入れると言うことを学んだ。

きっと、自分を愛すると言うことは、
嫌な自分、受け入れられない自分ですらも
受け入れてみることだと思った。

そして、彼に、それを伝えた時、
彼は、まだ自分の悲しみや寂しさと
向き合いきれていないと伝えてくれた。

そんな私たちの恋は、
電話越しに終えた。

一緒に過ごした約1年。
笑顔溢れる日々だった。
ギフトだった。

彼が私に与えてくれたことに
感謝いっぱいの気持ち。

性格も、やることも、
彼の言葉やロマンスに
惹かれていたが、

私たちのタイミングと、
人生の流れは、
彼と共に過ごす未来ではなかった。

彼を傷つける存在にこれ以上なりたくなかった。

人と恋をして、
またお別れをする。
そんな胸が痛くなる恋愛を通して、
少しだけ強くなれた気がする

何より、自分のことが少し好きになれた。

自分のことを愛することを教えてくれた。






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