chaco@独学術

読書術や独学術を発信するひと。遍歴 : 実務系英日翻訳、ライティング。これまでに読んだ…

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読書術や独学術を発信するひと。遍歴 : 実務系英日翻訳、ライティング。これまでに読んだ本はのべ2900冊ぐらい(洋書は300冊ちょい)。英語学習はこっち→ https://note.com/english_master38/ アマゾンアソシエイト参加中

マガジン

  • 哲学が最弱の学問である

    ゲームに勝つことではなくゲーム盤を壊すことが哲学の仕事。哲学者たちの考えたことを超ざっくりと解説します。

最近の記事

小林秀雄と柄谷行人は似ているか『考えるヒント3』

小林秀雄と柄谷行人は真逆の思想家だ、という印象をもっていたわたくし。 エモーショナルなシステムに自閉する小林と、自閉したシステムの外部を志向する柄谷、というふうに。 しかし小林秀雄の『考えるヒント3』を再読していたら、その印象が少し変わった気がします。 柄谷行人には、いわば自閉したシステムの外部を志向する態度がありますよね。 意識のなかで完結する体系を好まず、つねに体系に他なるものを導入したがるような。 その他なるものを柄谷は、たとえば「他者」といったキーワードで呼

    • 宗教哲学の定番書 ジョン・ヒック『宗教の哲学』

      ジョン・ヒックの『宗教の哲学』。 宗教哲学の世界的な定番書のひとつ。2019年の12月にちくま学芸文庫に入りました。 あくまでも哲学の本です。信仰を擁護するための神学ではなく、宗教を哲学の対象として扱う本。 残念ながら訳文は読みづらいです。句読点の位置のためでしょうか、意味を取りにくい部分もちらほらあります。この辺は悪い意味で哲学書ぽい。 全体の構成は以下の通り。 ・宗教の哲学とは何か ・ユダヤ・キリスト教的神の概念 ・神の存在の同意する論証 ・神の存在に反対する論

      • 新たな狂気はいかにして可能か 松本卓也『創造と狂気の歴史』

        松本卓也の『創造と狂気の歴史プラトンからドゥルーズまで』(講談社選書メチエ)。 西洋哲学史で「創造と狂気」がどのように扱われてきたか、それを追跡していく論考です。 西洋哲学の偉人たちがどのような狂気をもち、それが彼らの創造性にどのようにつながったのか、という内容の本ではありません。タイトルだけ見るとそういう内容をイメージしてしまいますが、そのような病跡学ないし精神病理学的な話を期待すると肩透かしを食らうので要注意。 登場するのはプラトン、アリストテレス、デカルト、カント

        • ポストモダンとポストモダニズム何が違う? 東浩紀『郵便的不安たち』

          東浩紀の『郵便的不安たち』(朝日文庫)。 デビュー時から『動物化するポストモダン』直前までの、おもに90年代に書かれたエッセイを集めた本です。現在では河出文庫から新版が出ています。 取り扱われる題材は哲学から文学、アニメまでかなり雑多。『存在論的、郵便的』の解説、ソルジェニーツィン論、夏目漱石論、庵野秀明(エヴァンゲリオン)論、柄谷行人論、などなど。 今でこそ違和感ありませんが、こういうスタイルは東浩紀が生み出したものだといわれます。本書の刊行時点ではそうとうなインパク

        小林秀雄と柄谷行人は似ているか『考えるヒント3』

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        • 哲学が最弱の学問である
          10本
          ¥500

        記事

          リヴァイアサンとベヒーモス『カール・シュミット ナチスと例外状況の政治学』

          マックス・ウェーバー以降で最大の政治思想家はカール・シュミットである、というのが最近では定説になりつつあるそうです。 シュミットはナチスに関与したことでタブー視されていました。が、1980年代に再評価が開始されたそう。 この流れが影響しているのか、ついに新書でシュミットの入門書が登場。蔭山宏の『カール・シュミット ナチスと例外状況の政治学』(中公新書)。 期待して読み始めましたが、正直かなり読みにくく、なんか掴みどころのない読書になりました。 これはシュミット自身の性

          リヴァイアサンとベヒーモス『カール・シュミット ナチスと例外状況の政治学』

          ちくま新書の『世界哲学史(別巻)』

          ちくま新書から刊行された世界哲学史シリーズ(全8巻) いきなり別巻から読み始めました。前半の130ページほどがこの企画を振り返る座談会になっています。全体像をつかむのに最適だし、僕は対談を読むのがなぜか好きなのでここから入りました。 自分は作家性の薄い論文集みたいな本が好きではなく、そのため本シリーズもスルーしていたのですが、本書を読んでみたらものすごく重要な内容になってることに気づく。 ・アリストテレスが設定した哲学の起源、それは「存在」を探求するというもの。しかしこ

          ちくま新書の『世界哲学史(別巻)』

          山本七平『日本人と中国人』

          山本七平(イザヤ・ベンダサン)が1970年代に書き連ねていた中国論を、2005年に単行本化したもの。 中国論というよりも、中国に対峙する日本人の歴史を観察することで書かれた日本人論といったほうがいいかも。 300万部売れた『日本人とユダヤ人』よりこっちのほうが強力だと思う。とくに日中戦争を2.26事件の対外バージョンと捉える洞察には度肝を抜かれる。 ・日本人は感情ベースで動く度合いが強い。これを上手く利用し得たのは周恩来。 ・徳川家康は日本人の政治家ではじめて外交を意

          山本七平『日本人と中国人』

          日本教とユダヤ教 山本七平『日本人とユダヤ人』

          山本七平の代表作のひとつ。もっとも有名な日本人論でもあります。 オリジナルは1970年にイザヤ・ベンダサンのペンネームで発売されたもの。300万部を超えるベストセラーになり、「この作者の正体はだれなんだ?」と大騒ぎになったそうです。 山本七平はエッセイ風の本を書くひとなのですが、文章は決して読みやすくないと思う。これが300万部も売れる当時の日本人の国語力に驚いてしまいます。 ・日本人はなんの苦労もなく育ってきた秀才のお坊ちゃんである。 ・日本にとって脅威だったのは自

          日本教とユダヤ教 山本七平『日本人とユダヤ人』

          リアリズムの古典 モーゲンソー『国際政治』

          国際政治学には、ユートピアニズム(理想主義)とリアリズム(現実主義)の二つの潮流があります。 そのうちリアリズムを代表する古典的作品がモーゲンソーの『国際政治 権力と平和』(岩波文庫)。原著の出版は1948年。 1920~1930年代前半のユートピアニズムの時代が終わり、1930年代後半以降はリアリズムの時代でした。本書はその流れを受け継いだ集大成的な作品です。 ちなみにモーゲンソーはドイツ人ですが、後年には国務省顧問や国防省顧問としてアメリカの対外政策にも影響を与えた

          リアリズムの古典 モーゲンソー『国際政治』

          デカルトの哲学をざっくり解説【そして近代へ】

          ルネ・デカルト(1596-1650)は近世哲学の大ボス。 近代以降の学問全体に多大な影響を与えた人物です。 数学者としても超重要人物で、物理学者ニュートンも彼から影響を受けていました。 哲学者としてのデカルトの魅力は、中世スコラ哲学と近世数学&科学の融合にあります。 この融合が、後にも先にもない独特な魅力を生み出すんですよね。中世までの哲学とも違う。近代以降の哲学や自然科学とも違う。どこか未来的な力をも予感させます。 以下、デカルト哲学をざっくり解説してみようと思い

          デカルトの哲学をざっくり解説【そして近代へ】

          佐藤優・橋爪大三郎『世界史の分岐点』

          2022年発売の、佐藤優と橋爪大三郎による対談本。 対談は当たり外れの大きいジャンルですが、本書は当たりに属するような気がする。 ・日本の外交は2001年の小泉政権以降、対アメリカ従属を強めていった。 ・安倍政権の2015年ごろに流れが変わった。対米従属を緩め、ロシアや中国に接近する流れを強めていった。 ・アメリカは当初これに気づいていなかった。アメリカがこれに気づいたら日米間でなんらかの摩擦があるかもしれないと本書時点での言及。 ひょっとして安倍氏の最後や、今の岸

          佐藤優・橋爪大三郎『世界史の分岐点』

          空気読みよりもルール設計 菅野仁『友だち幻想』

          なぜ友人関係は疲れるのか?どんな距離感覚で人と接するのが適切なのか? こうした問いかけに一つの指針を与えたロングセラーが『友だち幻想』(ちくまプリマー新書)。 発売からだいぶ経ってから火がつきベストセラーになった珍しい作品。読んでみたら確かに面白い。 著者は社会学者の菅野仁。ジンメル(ウェーバーやデュルケムとならぶ社会学の始祖)の研究者でもあります。 本書のコアとなる主張、それは同質性から並存性へということ。 昭和あたりまでの日本社会に特徴的だった性質が、同質性でし

          空気読みよりもルール設計 菅野仁『友だち幻想』

          今の社会学がわかる本『社会学はどこから来てどこへ行くのか』

          『社会学はどこから来てどこへ行くのか』。岸政彦と北田暁大のふたりを中心に、4人の社会学者たちが対談を繰り広げる本です。 おもに社会学のアイデンティティについて話が盛り上がります。 社会学がなんなのか、いまいちよくわからないところがありますが、それは本人たちにしても同じ感想らしい。「うちらって何やってるんだろう?」などの赤裸々な問いかけが、随所に炸裂します。 本書の結論を一言でいえば、「地味な調査を軸にする地味な学問に戻ろう」ということになります。 社会学はどこから来た

          今の社会学がわかる本『社会学はどこから来てどこへ行くのか』

          樺沢紫苑『インプット大全』

          ベストセラーになった『アウトプット大全』の続編。 前書ではインプットとアウトプットの理想的な比率が3:7であると説かれていました。 本書はそのインプットのほうの質をいかに上げるかに焦点を当てた内容。いくらアウトプットを多くすべきといっても、その元となるインプットがしっかりしていなくては始まらないので。 前作同様に有益な内容、そして読み物としてもかなり面白い。 著者のアウトプット重視については個人的には半信半疑なとこもあります。 たとえば10代~20代の若い人間ならイ

          樺沢紫苑『インプット大全』

          ナポレオン戦争とはなんだったのか 岡義武『国際政治史』

          ナポレオンといえばフランス革命時代のフランスに現れた軍人。 だれもが知る存在ですが、なぜ彼がここまで世界史の重要人物として扱われているのか、僕にはいまいちピンときません。 とくに謎なのが、フランス革命後のナポレオン戦争。ナポレオンはヨーロッパ大陸各地を荒らしまわり、戦争に次ぐ戦争で波乱を巻き起こします。 あれはいったいなんだったのか? ずっと疑問に思っていたのですが、岡義武の名著『国際政治史』(岩波現代文庫)を読んでその謎が一部氷解したので、メモっておきます。 イギ

          ナポレオン戦争とはなんだったのか 岡義武『国際政治史』

          フランシス・フクヤマ『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』

          『歴史の終わり』で有名なフランシス・フクヤマによる名著です。邦訳が出たのは2013年。 「自由民主主義システムが人類の最終ステージなのであり、ここから先は大幅な革命や変化などなく、その意味で歴史は完了したのだ」というようなことを、そこそこの確信で語ったのが『歴史の終わり』でした。 しかし21世紀に入ると様相がおかしくなります。自由化や民主化の流れがストップし、それどころか逆行する国まで次々と現れはじめたのです。 これはどういうことなのか? このような状況と対峙してフク

          フランシス・フクヤマ『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』