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ミュージカルは、合法の覚醒剤


雨が降っている。
ついこの間家の近くの桜が満開になったのに。じきに散ってしまう別れのタイミングが、さらに早まってしまうじゃないか。

と、さも花見ガチ勢のようなことを考える一方で、屋内から雨が降るのを眺めるのは心地良く、非常に好きである。
外は傘をささないといけないし、濡れるし、大変そうだけど、ここは大丈夫。穏やかな時間が流れている、という安心感が心を満たす。

うん、外に行く用事がない時の雨は好きだなぁ。

久しぶりに、ゆっくり時間を取ってこうやって文章を書けている。
同棲していると、じっくり考えたいことも、独りになって文章を書くことも、全部後回しになる。
会話があるし、最低限気を使うし、目の前の家事や次の休日の予定など、頭に余裕がなくなる。
「時間は作るもの」なんて言うが、毎日の仕事は神経を集中させ、必死にもがくことで何とかこなしている状態なので、夜にはヘトヘトだ。したがって彼女が寝静まった後にムクっと起き上がる体力もなく、もちろん、朝早く起きる元気も無い。

そうなると必然的に、休みの日に彼女が用事で出かけているこの時間が、1番独りになれる時間なのだ。

エクセルシオールカフェでブルーベリーベーグルを食べながら、Sサイズのホットコーヒーを飲む。ベーグルって、モチモチした食感が食べ応えあって、美味しいよね。

昨日は、1日では消化しきれない程の感動を味わった。
高畑充希さん主演の「WAITRESS」というミュージカルを観賞したのだ。

いや、本当に感動した。
終わった後、なぜかため息が止まらず、家に帰ってからもずっと彼女と2人でため息をつきながら、「いやぁ、凄かった」「最高だった」と、それしか言っていなかった。その時の感情を言葉にして表現するには2人とも語彙力が不足しており、最高だった、しか口から出てこなかった。
一日経った今もフワフワした気持ちで、魂の半分はまだ日生劇場の座席に座っている。

元々はブロードウェイミュージカルのようだ。高畑充希さんが大好きで、何回も足を運んだという。
アメリカ南部の田舎町にとびきり美味しいパイを焼くダイナーがあり、そこで働く3人のウェイトレス。主人公のジェナはダメ夫のアルの束縛に苦しみながらも、今の生活から抜け出せずに、日々の葛藤を源に色々なパイを焼く。ドーン(宮澤エマさん)は恋愛経験が無く、オタクな自分を受け入れてくれる男性が現れることなどないと、恋愛に臆病だ。ベッキー(Wキャスト、私が観た回はLiLiCoさん)は病気の夫の看病と仕事を両立しており、いつも料理人のカルと言い争いをしている。
そんなある日、ジェナが欲しくもないアルとの子どもを身ごもっていることが発覚し、産婦人科のポマター先生(宮野真守さん)と出会うことで、話が展開していく。

人生にはみんな、それぞれつらい環境やどうしようもない悩みがある。そんな中で楽しいことも辛いことも、パイに包んで焼いていき、未来に向けて歩いていこうという、ポップでコメディカルで、悩める人たちに勇気をくれる、素敵な物語だ。

ミュージカルの魅力って何だろう。

高畑充希さんの声はとびきり透き通る。それでいて力強く、圧倒される。表情も豊かで、食い入るように見つめてしまう。
LiLiCoさんはこのミュージカルの為に喉を手術したらしい。重厚な声色は楽器のようで、キャラにもぴったり合っていて、凄くカッコいい。
宮野真守さんのコミカルな演技と、大迫力の歌唱。背が高くて足が長い。
雅マモルで既に知っていたが、今回のミュージカルで完全にファンになった。

宮澤エマさんも、おばたのお兄さんも、勝矢さんも、他の演者の方々も、本当に歌が上手い。強くて、聞き取りやすくて、感情が乗っていて、凄いエネルギー量だった。

ボキャ貧ゆえに上手く表現できなくて申し訳なくなってくる。とにかく素晴らしいのだ。

そんな皆さんの歌唱を始め、演技、セットの転換、細かい小道具、その全てを目で追いかける。生の歌、音楽、ダイナミックな演出に圧倒される。心が躍り、ミュージカルの世界の中にに没入していく。
そんな生の歌と音楽と演技に彩られるストーリー。悩める主人公たちのどこかに必ず自身に重ね合わせられる側面があり、共感し、気づくと自分自身が心を痛め、背中を押されている。
悩める現代女性に贈ると謳っているが、男である私も漏れなく該当していた。

ストーリーや感情が上乗せされた歌というのは、自然に歌詞の意味が頭に入ってきて、演者のエネルギーそのままに心に突き刺さる。歌詞以上の意味が歌の中に込められて、心に届く。登場人物の葛藤やこれまでの記憶、思い出、未来への切望、希望、絶望感、全てが表現の中で、グラデーションをつけられて心に届く。
そして、演じる演者自身の、努力や演じる役への想い、このミュージカルへの心意気がさらに組み合わさることで、とてつもない熱量になって、心を震撼させる。

そう、そんなもの、その瞬間だけで受け止められるはずがなくないだろうか。
思い出すだけで幸福で、ドキドキする。
そしてそんな至福の時間が終わってしまったという喪失感と、もう一度観たいという渇望を抱え、今この文章を書いている。

気づいてしまった仮説を聞いてほしい。
ミュージカルは、合法の覚醒剤なのだ。
1日経って既に、禁断症状が出ている。
楽曲を収録したアルバムが出てほしいが、発売されるのかは不明だし、少なくともまだ出ていない。ブロードウェイミュージカルのアルバムがAppleMusicで聴けるため、ヘビーローテーションすることにする。

本当に素晴らしかった。
DVDも出るのであれば、すぐさま飛んでいって買いたい。
もしここまで読んでくれた方がいたなら、ぜひ買って観て頂きたい。
生とはまた違うかもしれないが、本当に素敵だから。

そろそろ魂の半分にも席を立ってもらわないと。明日からの仕事に取り掛かれない。。
土曜日に観賞しておいて良かったとしみじみ思う。

もしここまで読んでくれた人がいたら、ありがとうございます、と言いたい。

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