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【短歌一首】 皮すりて中身しぼれるその刹那スダチ呼び込む秋の鮮烈
皮すりて
中身しぼれる
その刹那
スダチ呼び込む
秋の鮮烈
スーパーの食品売場に酢橘(スダチ)が出回るようになってきて嬉しい。
すだちの独特の香りと酸味が大好きである。日本でのスダチの生産量は徳島県が95%以上をほこる。
料理の香味として似たような使い方をされるものとして、レモン、ユズ、カボスなどがある。どれも好きだが、スダチには忘れられない面白い体験がある。
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以前、仕事の関係で、徳島県出身という80歳の人から接待を受けたことがあった。驚いたことに、その方は料理が出てくるたびに自分のカバンからスダチを取り出し、さらに小さな卸金を取り出し、スダチの皮を擦ったり、中身を絞ったりして料理にかけていた。
中身を絞るだけでなく、スダチの緑色の硬い皮を卸金で擦って出る緑の粒子状のものもかける。店で出てくるビール、日本酒、焼酎などの飲み物にもどんどんかける、入れる。マイすだちとマイ卸金と呼びいつでも携帯しているそうである。
そして頼んでもいないのに、人の飲み物や料理にまでスダチの皮を擦ったり、中身を絞ってかけてくる。ちょっと面食らったが、これが鮮烈な香りと酸味で酒や料理を引き立て本当に美味しかった。
特にスダチの硬い皮を擦るというのは初体験。中身の香りとはまた違ったインパクトがある。皮をたくさんするので、中身を絞る時にはスダチの皮の緑色はほとんどハゲしてしまっていた。
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その人曰く「何十年も毎日酒を欠かしたことはない。量も結構飲む。それでも80歳で肝臓の数値も全く悪くなく、体も元気でバリバリと仕事をこなせるのは、毎日欠かさず摂っているいるスダチのおかげである。二日酔いになったことなどない」と。実際その人は顔艶がよく、エネルギッシュでよく食べ、よく話し、話題も面白い人だった。(この原則が誰にでも当てはまるかは不明。)
帰り際に、お土産と言って大きな袋を渡された。中には新鮮なスダチが何十個も入っていた。それまでもスダチやその他の柑橘類も好きであったが、この時からスダチをとてもひいきにするようになった。
スダチの香りはまさに鮮烈。一瞬で力強く立ち上がり、そしてスッと鼻腔を抜けて消えてゆく。今年もスダチの皮を擦り、中身を絞って、茶に、酒に、料理にどんどんかけよう。
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早速、厚めの油揚げをトースターで焼き、スダチを絞って大根おろしと醤油で食べた。
猫間英介