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安岡章太郎「悪い仲間」
安岡章太郎の芥川賞受賞作「悪い仲間」(1953)。
作品の舞台は戦中(おそらく1941年)の日本であり、大学生の主人公と二人の友人との奇妙な交流を描いている。
三人の交流は、戦時期の新体制へと傾斜していく日本の姿と重なる。(cf. 大塩 2020)
しかしながら、きれいにピッタリ重なるわけでもなさそうだ。
主人公の友人である高校生・藤井高麗彦(こまひこ)は朝鮮出身という設定。
主人公は同級生の倉田とともに、高麗彦の無邪気な大胆さに憧れを抱き、その模倣を繰り返す。
こうした高麗彦と他の二人との関係性が、戦時中の朝鮮(人)と日本(人)との関係を象徴しているとは言い切れまい。
宗主国が植民地に憧れを抱く可能性はあるかもしれないが、果たして当時の時代状況に当てはまるのだろうか。
むしろ日本が目指したのはドイツのファシズムであり、三国同盟こそ「悪い仲間」だ。
いずれにせよ、悪ノリや虚勢の張り合いが過熱して破滅へと向かっていく描写は、当時の日本の姿を示唆しているように思える。
個々人の関係と国際関係がリンクする部分と、そうでもない部分とが混在しているのが、本作品の特徴と言えよう。
それにより、独特な曖昧な味わいが醸し出されている。
参考文献
大塩香織「安岡章太郎「悪い仲間」と遠藤周作「白い人」に描かれる戦争」(『国文白百合』2020-03)