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何者にもなれない欠損だらけのお前たちに告げる『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
やあ、僕だよ。
差し迫るプレッシャーに押し潰されそうになりながら、夫の『エルデンリング』初見プレイを眺める日々さ。
皿洗いと洗濯干しを終えたらまったく体が動かなくて、午前中にやりたかったことは何一つ出来ていない。
こういう時は大人しく布団を被って優しい映画を観るに限るね。
今回はインディーズとロードムービー要素があるってだけで選んだ一本。
当たりも当たり、大当たり。今後、定期的に見直すだろう作品だったよ。
あと、「欠損」についても今日は書いていこう。
さあ、始めようか。
楽しんでってくれると嬉しいよ。
本作あらすじと感想
ダウン症の青年「ザック」がプロレスラーになりたくて施設を脱走し、親友の「タイラー」や途中参加の「エレノア」と一緒に、憧れのレスラーの元へ旅する話。
吹き替え版の声優さんの力量は無視出来ないが、ザック・ゴッツァーゲンが演じる「ザック」はチャーミングさがよく表現されており、入り口から一気に引き込まれる。
なんというか、「ザック」は無条件で応援したくなるやつなのだ。
そして「タイラー」が適度に嫌なやつで、「ザック」が脱走者と分かった途端に態度を一変させ、彼を受け入れはじめるところは人間らしくてとても良い。
以下、「ザック」が「悪玉」のレスラーになりたいと「タイラー」に話すシーン。
「なんで悪玉?」
「なんでって、家族に…捨てられた悪だから」
「…悪だからじゃない。いいやつだって捨てられる。変な高笑いするとか、黒い衣装着てアイシャドウ塗るとかそんなことじゃない。決め手はここだ、魂。お前のは良い。悪玉はやめて、ヒーローになれよ」
「ヒーローなんてなれないよ。だってさぁ、俺はダウン症だよ?無理だよ」
「魂とは関係ない。誰に言われた?」
「コーチとか、先生たち」
「コーチ?なんて言われた?」
「俺のこと、ノロマだって」
「コーチがか?」
(ザックが頷く)
「 クソコーチだな、そのチーム弱いだろ?」
(ザックが少し曖昧に頷く)
「だろ?」
「タイラー」は「人は何にでもなれるわけじゃない」と言いつつ、「ザック」の怪力を賞賛する。だから「コーチはクソ」だと続けた。
「魂とは関係ない」のセリフで僕はむせび泣いた。
今振り返っても何がぐっときたのかいまいち判然としないのだけれど、二人がちゃんと友だちになったと描かれていたからかなと思う。
冒頭、「ザック」に協力した施設利用者のおじいちゃんが「友だちは選べる家族」と言っていて、もしもそう思える友だちがいるならなんて幸せなんだろうと思っていた。
彼らが確かに「家族」に見えたから、僕はぐっときたのだ。たぶんね。
世界はいい具合に残酷だが、残酷さはさして問題ではない。
そう、「魂とは関係ない」。残酷さに立ち向かう「魂」が感じられるのは、出来ないことより出来ることの方なのだ。
ちなみに僕はこのあと3回泣いた。
この「タイラー」を私生活で問題だらけのシャイア・ラブーフが演じてるのもエモいんだよなぁ。
誰もが欠損している、見えやすかったり見えづらかったりするけれど
ここで言う「欠損」とは、社会生活を営むにあたって損になりうる性質と定義する。障害、というより「欠損」。人間社会のルール上マイナスになりうるステータスとも言い換えられる。
ダウン症は見た目ですぐにわかる「欠損」だ。
見た目で分かると、泳げないのに意地悪な子どもに「飛べよノロマ!」などと罵られて小突かれることもあるだろう(映画の中みたくね)。
目が見えない、耳が聞こえない、腕がない、足がない云々。
それらを「欠損」した人たちは、多くの「欠損」していない人たちが支持するルールでゲームに参加しなければならない。
彼らの手持ちのカードが明らかに少ないのを見て、蔑み、同情し、好き勝手に反応する。
見た目で分かる「欠損」は現在の社会通念上、配慮されやすいかもしれないが、それをもって余りあるマイナスだ。
そしてこの問題をより複雑にしているのは、意地悪な子どもも「欠損」しているからである。
彼が抱えてるのは見えづらい「欠損」だ。ああやって、ダウン症の「ザック」に意地悪く飛び込みを強要する様子を誰かが見ていない限り、「欠損」にはなりえないけれど。
では何が彼の「欠損」なのかというと、まさにその一連の行動が「欠損」と言える。
現代の倫理観(特に日本の)では、意地悪な行為は子どもであっても強烈に排除される傾向にあり、大きなリスクがある。
意地悪が出てしまう「欠損」は彼自身の枷になるだろう。もっとも、改善出来る「欠損」ならよっぽどマシだし、何より常に発現してるわけじゃない。
今回はたまたま「タイラー」が見つけ、僕ら観客がいたから観測されただけに過ぎないのだから。
欠損を特徴と捉えようとして苦しむこともある
僕は「欠損」を過小評価しがちだ。
何故なら僕自身が「欠損」だらけの人間で、「欠損」を特徴として捉える方が自尊心が傷つかなかったからだ。
それに、ポジティブで向上心がありそうじゃないか。マイナスをマイナスと考えない人はバイタリティがあるようにも見えるし。
けれど、やはり現実的には「欠損」なのだ。
その特徴がなければ被らなかった損害を無視することは、ただ事実をねじ曲げて認識してるに過ぎない。
最初は事実と認識の差は小さいが、毎日の小さな誤認がやがて大きくなり、苦しむのは分かりきっている。
体重計に乗らないといつの間にか10キロ太っていたりするだろう?あれと一緒さ。
正確なモニタリングを逐一することで、事実と認識の差は広がらない。
過大評価しても過小評価しても差は広がり、正しく把握するのが難しくなる。
それで何が起きるかというと、「タイラー」の言うところの「人は何にでもなれるわけじゃない」ってやつについて考えるのも難しくなるのだ。
何者になるとかならないとか窮屈だなと感じるわけよ
出来ると出来ない。
得意と苦手。
やりたいとやりたくない。
やらねばならないとやらなくてもいい。
これらをごっちゃにするケースをたびたび見かける。
彼らの多くが取る「何者にもなれなかった」と後悔するような態度に、僕は違和感しかない(全員がそうとは言わないが)。
「何者になる」って、自分は自分でしかない。
生涯ただの一度も、家族とすら口を聞かず、社会参加したことがないというなら話は別だけれど、そもそもその態度を僕に取った時点で君はもはや「何者」、つまり僕に観測された君である。
僕にその態度を観測された結果、僕は違和感を覚えてこんな記事が生まれた。
何かを生みだし、誰かに影響を与えるのが「何者になる」ということならば、すでに君が君だと僕に観測された時点で「何者」じゃないか。
だって「今」のこの僕が誰かの夢見る未来
叶えたい夢ばかり数えて 叶えた夢は泣きながらきっとどこかへ
とはいえ、「何者」の定義がごくごく狭い可能性はある。
僕の中では、何かを生み出して誰かに影響を与えさえすれば「何者」であるとしているけれど、その影響範囲が誰かだけでなく得体のしれない「世間」で、しかも瞬間的に大金や名声を得られる人が「何者」であるのならきっとごくわずかの人しかなれないし、後悔するのかもしれない。
…いや、それだって後悔するタイミングは今なのだろうか。
だって人は死ぬまで社会から切り離されないではないか。それならば狭義の「何者」だったとしても、なれないと諦めるには早いように思うのだけれど。
何にせよ、僕は自分自身がやってきたことを無視しているような、やれることやその人を評価したり、憧れたりする人たちを蔑ろにするような、「何者」云々に違和感しかないという話だ。
タイラーがザックを見るように僕は人を見つめたい
例えば、僕の「欠損」として忘れ物や失くし物の多さがある。
ランドセルを何度か忘れた時は母に「私を困らせるためにわざとやってる」と激怒され、先生には困惑された。
また、貧乏学生の時にカバンを閉め忘れて眠り込み、財布をすられたこともある。
自転車の鍵の閉め忘れで自転車を盗まれたこと5回以上。どこの駐輪場に置いたか忘れて2台失くしたことがある(実家の最寄り駅の駐輪場は本当にたくさんある!)。
これらの話をエピソードトークとしていろんな場面で使っている。結構ウケるし、ウケなかったとしても自分の「欠損」を披露すると心理距離が近くなるのは確かだから、別に損をしない。
忘れ物や失くし物の多さは純然たる「欠損」だ。金額的にはもちろん、忘れ物や失くし物をすることでフォローする時間が必要になる。
僕の「欠損」は絶対ない方が良い。でもそれと同時に僕が僕を活かすための特徴でもあるのだ。
以前は全力を注いでこの「欠損」をなくそうとしたけれど、結局全力を注ごうが注がまいが即改善にいたらない「欠損」である。
マイナス部分にこだわりすぎて過剰に自分を消費するくらいなら、「欠損」は「欠損」として損害を冷静に見つめ、その損害を取り戻すのか、あるいは他の特徴で巻き返すのか、それとも損害が起きない場所に移動するのか、よくよく観察するのが重要だと思う。
それはちょうど、「タイラー」が「ザック」を見つめる目のようなものだ。「ザック」はレスラーになりたかったし、年相応に外に出たかった。
たったそれだけ。彼の「欠損」は「魂には関係ない」のだ。
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