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#69 百鬼堂農園(18) ネギとわたくし

 ネギについてこれほど考えている人間がほかにいるだろうか。

 6~7月はネギを植える季節。今までそんなことを知らずに生きてきた。しかし、知ってしまった限りは植えなくてはならない。そんな気分でこの数日間過ごしてきた。

 ネギは植えないのか、と南東さんに厳しめの口調で何度か指摘されていた。いやでも難しそうだし、やってみたいけど苗売ってるの見たことないんですよ。「ホームセンターの店の外の苗売り場じゃなくて、店の中だよ。観葉植物とか売ってるところ」

 売っていた。30本348円。さすが南東さん。ネットで拾える情報など、たかがしれたものだ。

 指南書を読み、YouTubeの「ひろちゃん農園」も、NHK「趣味の園芸 やさいの時間 ネギ編」もみた。葉が広がって実がなるという、いままで挑んできた野菜にくらべ、やや特殊な作り方のようだ。

 畑に深く溝を掘り、溝の側面に立てかけるようにか細いネギの苗を置く。NHKで植えてるネギは、近所のホームセンターで売ってる苗より、あきらかに太くて立派です。当方のネギは細く貧弱で不安なことこの上ない。

 根元に薄く土をかぶせ、その上に通気性がよくなるようわらを置く、と指南書や番組でも解説している。しかし間違えた。根元にいきなりわらの替わりの枯れた雑草をかぶせ、その上に薄く土をかけてしまった。上から燻炭をまいた。帰ってから気づいた。それほど致命的なミスでない気がするが、心配ではある。

 翌日畑にいってみると、ネギの3分の1ほどは倒れていた。枯れてはいないが黄色くなってきている。あわてて起こしたが、うまく根付くだろうか。もう少し土をかぶせるべきだった気がする。

 後日、培養土をさらにかぶせた。太く長く育って欲しい。ネギは大好きである。おかずとしても、薬味としても、鍋の具材としても、いくらでも食べたい。来世はネギに生まれ変わりたい、とは思わないが、少なくとも今世は、ネギ野郎として生きていきたい。

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