環境省が採用に動いた景観調和型の太陽光発電とは
2024年3月、環境省が国立・国定公園の風致(良好で自然な景観)の維持に支障を及ぼすおそれのない色彩及び形態の太陽電池パネル(景観調和型太陽電池パネル)の実証事業を行うため、アイデアを持つ事業者の公募を行うことを発表しました。
見た目の問題が注目されてきている
いま太陽光発電は安くなり固定買取制度を利用した売電向け設置から、電気代削減を目的とした自家消費向け設置にステージが移って市場規模が拡大し、大規模な開発も進んでいます。
ですが同時に各地で景観悪化を懸念した住民反対運動も報道され、環境省は環境配慮ガイドラインを作って事業者に配慮を求めたり、自治体の中には独自の条例を作り制限するところも出ています。
環境省によると太陽光の国内ポテンシャルは、パネル設置箇所を現実的な範囲に絞っても年間発電量約3兆2000億kWhと、国内電力需要の3倍以上になると分析しています。その合計面積は320万haくらいで国内農地の約7割、九州の約8割に相当します。発電量の多さにしては狭いくらいの印象ですが、地域に供給するとなると無機質なパネルが景観の中に点在することになり、場所によっては拒否感を示したくなる人が多くなって当然とも言えます。環境保全が厳しい国定公園や、その場所を信仰の対象としているような地域ともなると不可能に近いでしょう。
今行われている対策
環境省は以前からガイドラインで景観対策としてパネル角度と高さの抑制、セットバックや柵と植栽による境界の工夫、そして太陽光パネルや付帯設備等の色彩による工夫を挙げています。メガソーラーの中には地域と共に検証を重ねて稼働に至ったものも多くあります。ですがそれでも100%違和感が無いものにはできず、反対が続いて稼働まで費用がかかったり、建設計画の変更で初期の予測より大きく収益が減った案件もあり、公表されている以外にも導入自体諦めるケースは多くあると思われます。ポテンシャルはあるのに見た目の問題で導入量が増やせなかったり、経済的に成り立たなくなるのは惜しいですよね。
景観調和型のパネルの存在
ではこの問題の解決としてパネル自体が違和感を覚えないものになれば、場所や対策工事を気にせず設置が可能になりそうです。国内外でこの解決に挑む研究が進められており、大きく分けて2つを紹介します。
・透明ソーラーパネル
一般的なソーラーパネルではなく、電池セルに透明性があるものを使ったパネルです。話題のペロブスカイト太陽電池は透明化が可能で、他にもリコーなどが開発するシースルー色素増感太陽電池、日本板硝子やENEOSも開発に参加するUE Power、東芝が開発する透過型Cu2O太陽電池といった技術があります。
パネルが透明であったり様々な色彩に染めることができれば場所によって景観の違和感を和らげることができ、建物には建材の表面だったり窓そのものに使うことや、草木などに擬態させることで自然に調和させることも可能でしょう。
・Invisible Solar
イタリアのDyaquaという企業が作ったパネルで、電池セルの表面を、瓦、レンガ、石、木材といった素材に似せて加工した半透明ポリマー樹脂で覆った製品です。ポンペイ遺跡の屋根タイルの代わりとして実用化されました。
伝統的な建造物の屋根や壁に一般的なソーラーパネルを乗せることは厳しいですが、見た目がそこの瓦や柱と全く同じであれば設置が可能になるかもしれません。自然にある岩や木にしか見えなければ観光の妨げにはほとんどならないでしょう。ディズニーランドのようなテーマパークは晴れた日に消費電力がかなり増加しますが、このパネルをお城の屋根などに使えば世界観を保ったまま自家発電が可能になると思います。
一般のパネルと比べて発電量は見劣りしますが、他の電池セル技術や塗装技術と組み合わせることで今後向上も期待できます。
環境省の公募には実際にどういったパネルが採用されるのかは分かりませんが、建物の屋根上に設置することが条件とのことで、戸建の屋根でたまに見かける瓦一体型パネルが採用される可能性もあります。いずれにしても景観と調和したパネル設置が増えれば視野が広がり、ここにもあそこにもパネルを設置できないかというニーズが生まれて市場は拡大していくのではないでしょうか。