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息を呑む
2018年の夏。
バイトの先輩たちと一緒に阿智村へ行った。
日本一綺麗な星空を見に行くためだ。
星は雲が多いとよく見えない。月が明るくてもダメ。
とはいっても、雲の量も月の明るさも、人間の力でどうこうできるものではないので願うしかない。
正直ここまで運任せな状況は初めてだけど、「日本一の星空が見れる」というワクワクだけを胸に4時間車を走らせた。
阿智村に到着して空を見上げると、う~ん、雲、雲、雲!
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ワクワク感は車の座席に置いてきてしまったみたい。
心の中はあっという間に不安で埋め尽くされる。
ゴンドラに乗ってひたすら山を登る。
山頂に到着した頃にはすっかり日が暮れていて、気温もゴンドラの搭乗口と比べて10〜15℃も低い。
ろくな下調べもせず、ノリと勢いでやってきたわたしたちは、明らかに準備不足だった。
半袖オンリーで上着なんて持ってない。
星を見るというのにレジャーシートもない。
でもここまで来たら後戻りなんてできないから、わたしたちは寒さに耐えながら、思い切って冷たい草の上に寝転がった。
完全消灯10分前になっても、雲はなかなかどいてくれない。
「地元の星空の方が綺麗だったらどうする?」なんて、考えたくもない質問を先輩に投げかけられる。
わたしは先輩がいる左側の耳に栓をして、「雲が見え隠れしていますが、この様子であれば綺麗な星空が見えると思います~!」という明るいガイドさんの声だけを信じることにした。
完全消灯のカウントダウン。
10…、9…、8…、7…、
目を閉じる。途端に心臓がドキドキし始める。
6…、5…、4…、
胸の前で握った両手に力が入る。
3…、2…、
綺麗な星空が見れますように(願掛け)!!!
1…!
パッと目を開く。
と、同時に思わず息を呑んだ。
わたしの視界ではとらえきれないほどの無数の星々が、夜空いっぱいにきらめいている。
天の川も、数々の星座も、本当はこんなに綺麗だったんだ。
「あれがベガだよ!ほら、あれ!」って、むかし親戚の子どもに教えてもらったことがあるけれど、賑やかな都会の街から夜空を見上げても、それらしき星すら見つけることができなかった。
そのベガが、いまならすぐに見つけられる。
もはや「見つける」というレベルではない。目の前に「ある」。
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「満天の星」とは、きっとこの星空のことをいうんだろう。
「星降る夜」とは、きっと今夜のことをいうんだろう。
なんて言ったらよいのかわからないのだけれど、「生きててよかった。」とこのとき心からそう思った。
こうしてわたしは、「息を呑む」という言葉の答えを見つけた。