ダブルジョパディの法則から考える効果的なブランディング戦略
みなさん、ブランド力が強いから愛される、信者と呼ばれるようなファンを作る・増やすことが重要だとマーケティングやブランディングのコンサルから言われたことありませんか?
上記は正解ではあるのですが…別の視点からみると、間違いでもあり、、、
たくさんの人に愛されてるから、ブランドが強い
or
ブランドが強いから、愛されている
は鶏と卵の関係のようにも考えられます。
上記を裏付けるエビデンスとして、ダブルジョパディの法則という考え方があります。
はじめに:ダブルジョパディの法則とは何か、その基本概要と重要性について。
ダブルジョパディの法則とは?
ダブルジョパディの法則とは、市場シェアの大きいブランドは顧客数が多いだけでなく、顧客ロイヤルティ(購入頻度やリピート率)も高いという現象を指します。
この法則は、マーケティング研究者アンドリュー・エーレンバーグ(Andrew Ehrenberg)の研究を起源としており、多くの業界や市場で観察されています。
例えば、日用品市場において、シェアの大きなブランドは圧倒的な認知度を持ち、新規顧客を獲得しやすいだけでなく、既存顧客からの再購入も高い頻度で得ています。一方、シェアの小さいブランドは、顧客数が少ないだけでなく、ロイヤルティの低さにも直面します。
エーレンバーグの研究(1990年)によれば、この法則は消費財市場だけでなく、サービス業やテクノロジー市場にも適用できる普遍的な原則として確認されています。
ダブルジョパディの法則から学ぶブランディングの基本原則
1. 新規顧客獲得を最優先する
ダブルジョパディの法則が示す通り、ロイヤルティ(既存顧客の維持)は市場シェアの拡大に依存します。つまり、ロイヤルティを向上させる前に、まずは新規顧客を広く獲得することが重要です。
エビデンス:
「How Brands Grow」(Byron Sharp, 2010)は、成長するブランドの共通点として、「広範囲なリーチ」と「新規顧客の継続的な獲得」を挙げています。研究によると、新規顧客を獲得しないブランドはロイヤルティも高まらず、成長が停滞することが確認されています。
実践例
広告キャンペーンで認知度を拡大し、新しい市場セグメントにリーチする。
地域限定のプロモーションを実施し、新規顧客を試用させる機会を提供する。
2. 広く浸透するブランドアイデンティティを構築する
大きな市場シェアを持つブランドは、顧客の頭の中で「トップ・オブ・マインド」として存在しています。このポジションを獲得するためには、ブランドメッセージをシンプルかつ一貫性のある形で広く伝える必要があります。
エビデンス:エーレンバーグ=バス研究所(Ehrenberg-Bass Institute)の研究では、記憶に残るブランド要素(ブランドロゴ、カラー、スローガンなど)が顧客認知と購入行動を強く促進することが示されています。たとえば、コカ・コーラの赤いロゴや独特のボトル形状は、ブランド認知の高さに寄与しています。
実践例
ブランドロゴやデザインの一貫性を維持し、どのタッチポイントでも同じ印象を与える。
短いキャッチフレーズや簡単に覚えられるビジュアルを使用する。
3. 購入しやすさ(Physical and Mental Availability)を最大化する
顧客がそのブランドを購入するには、「手に入りやすい」「頭に浮かびやすい」状態が必要です。市場シェアが大きいブランドは、店舗やオンラインでのプレゼンスが高く、顧客が迷わず選べる状況を作り出しています。
エビデンス:Ehrenberg-Bass研究所の別の研究(Romaniuk & Sharp, 2004)では、購入しやすさがブランドの成長を支える重要な要因であることが示されています。たとえば、商品が陳列棚で見つかりやすい位置にあることや、オンライン検索で上位に表示されることが販売促進につながります。
実践例
流通チャネルを増やし、顧客がどこでも商品を購入できるようにする。
SEO(検索エンジン最適化)を強化し、デジタル空間での発見性を高める。
4. 競合ブランドとの差別化を過度に追求しすぎない
一般的に「差別化はブランド戦略の核」と考えられますが、ダブルジョパディの法則が示すのは、差別化よりもリーチの広さが成長に寄与するという点です。ブランド成長の鍵は、「誰でも使える」「万人向け」という印象を与えることにあります。
エビデンス:マーケティング科学者のByron Sharpは、「消費者は特定の理由でブランドを選ぶというよりも、単にそのブランドを知っているから購入する」という結論を提唱しています。
実践例
「競合他社より〇〇が優れている」よりも、「生活の一部として自然に馴染む」ブランドメッセージを作る。
特定の顧客層だけを狙うのではなく、広いターゲット層にアプローチする。
5. 既存顧客を重視しつつも、新規顧客重視のバランスを取る
既存顧客のロイヤルティプログラムを導入することは有益ですが、それが新規顧客獲得を阻害するようであれば、戦略の見直しが必要です。
エビデンス:「Brand Loyalty Programs: Are They Worth It?」(Dowling & Uncles, 1997)は、ロイヤルティプログラムの成功は新規顧客獲得の努力を補完する形でのみ機能することを示しています。
実践例
ロイヤルティプログラムの特典を既存顧客だけでなく、新規顧客にも一部開放する。
新規顧客向けの「初回限定特典」を設け、利用のハードルを下げる。
結論
ダブルジョパディの法則は、ブランド成長のメカニズムを解明する上で重要な理論です。この法則が示す通り、新規顧客の獲得が市場シェアを拡大し、その結果として顧客ロイヤルティも向上するという流れを意識することが必要です。
ブランディング戦略を設計する際には、「リーチの拡大」「購入しやすさの確保」「シンプルなアイデンティティの構築」など、ダブルジョパディの法則を踏まえたアプローチを採用することが、持続可能な成長の鍵となります。
市場の競争が激化する現代において、この法則を理解し、実践に活かすことで、自社ブランドを新たな高みへ導くことができるでしょう。
最後に・・・
ただし、、、こんな疑問が浮かびませんか?
ダブルジョパディの法則の中で考えると、エルメスやヴィトンなどは説明できないもの?
シェアがブランドイメージに寄与、購入のしやすさが重要とのことであれば、ヴィトンやエルメスなどの高級ブランドと矛盾が生じる…高級ブランドこそ、ブランド価値が世に認められた結果じゃないのか???
確かに、「ダブルジョパディの法則」とエルメスやヴィトンのような高級ブランドの状況には一見矛盾があるように感じられます。
しかし、これは法則の適用範囲と高級ブランド特有の戦略を理解することで整理できます。
次回はその理由と解釈を説明します。