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AKBの推しメンが我が社の広告に…タレントサブスクは世代を超え、若者の運命を変える

「やはり家というのは、一生の買い物だと思います。私にその経験はありませんが、ほとんどのお客様にとっても初めての場合が多いと想像しています。そんなお客様に寄り添う御社の経営理念に感銘を受けまして…」

そう志望動機を話すのは、新卒応募者のキタノ君。今日は初めての対面での面接だ。

学歴も、見た感じも、受け応えも申し分ない。こんないい人材は、ここ数年応募がない。もう、心の中で内定を出す自分がいる。

「ありがとうございます。ところで、当社に興味を持ったきっかけが何かあったんですか?」

これは、今日の為に予め用意していた質問だ。

「はい…実は御社のWebサイトに掲載されている板野友美さんを見まして…」

きたきた。

「世代ではないのですが、父が熱心なAKBファンでして…あと、やはり御社の名前も印象に残りました」

そう、我が社の名前は『アキモトホーム
アキモトだから板野友美は、いささか狙いすぎかとも思ったが大正解だ。
タレントサブスクが、採用に効くというのは本当だった。


タレントの写真を自社の広告に掲載できるサービスを初めて聞いたのは、4〜5年前だろうか。ロンドンブーツ田村淳の画像を、低価格で自社の広告に掲載できるという。予め用意された定型の素材を複数企業で使い回す事で、低価格を実現するらしい。提供団体のクレジットを表記する必要があるので多少不自然だが…  

その後販促系の展示会にいくと、同様のサービスが目 に見えて年々増えている。そして取り扱いタレントのラインナップも併せて増える。

参加するのは、誰もが知っているが一線で活躍してたのはちょっと前…みたいな絶妙なタレントであるケースが多い。その中にはライトなスキャンダルを起こした人もいる。

そして、長らく採用難に苦しんでた我が社は、タレントサブスクのサービスを導入。参加タレントから板野友美をチョイスしたというわけだ…

今はクレジット表記も不要になり、学生から見れば、我が社が板野友美と直接契約している様に見えるかも知れない。会社の信頼度と、好感度は当然上がる。

タレントサブスクの営業マンが言ったとおり、その戦略にどハマりしたキタノ君が目の前にいるのだ…
この機会を逃す訳にはいかない。



「そうですか…ちなみに、他社の選考状況はいかがですか?」

まずは、一番気になるライバルの状況を確認だ。

「はい。みらい美容クリニックという会社で最終選考まで進んでいます。志望度合いは、正直御社と同じくらいです…」

美容クリニック?随分業界が違うようだが…
これは少し不安だ。長年の経験から、応募企業に一貫性がない学生は要注意だ。建築業と美容業はかなり離れているので、先程の志望動機も本心ではない可能性がある。

「随分、業界が違うみたいだけど…」

「実は、みらい美容クリニック様の経営理念も御社と同じなのです。『お客様への寄り添いが第一』であると…そこが私の価値観に合致しているという点で、志望動機も私の中では一貫しているつもりです」

おお、やはりキタノ君は優秀だ…
やはり、なんとしても入社して欲しい。

面談メモを装って、ネットで「みらい美容クリニック」の企業サイトを早速調べると、驚愕の事実を発見する。

こちらも、タレントサブスクを使ってるではないか…






篠田麻里子か…

まさかのAKB被りとは。
しかも、みらい=フォーチュンから麻里子をチョイスしたとするなら、その狙いも我が社と酷似している。

…まさかコレが志望理由なのか?

と思ってエントリーシートをよく見ると、関心のある部署として『広報』にチェックが入ってる。 

ここは賭けに出て見よう。

「そういえば、広報に関心があるらしいですね。何か理由があるんですか?」

「いえ、その…どんな仕事かと思いまして…」

「そうですか…私は以前、広報だったのでお答えしますよ。広告予算の作成や、企画立案。代理店とのやりとりとかですね…」

「はい、そうなんですね」

「あとは…関係者との打ち合わせも、結構ありますね」

「関係者!  それってつまり…」

「まあ、そういう事です」

「そうなんですか…」

「ちなみに打ち合わせには、他部署のメンバーも参加しますよ。営業部署の新人なんかも出席してますしね」

「そうなんですか!」

やはり確定だ。関係者と言った途端に、目の色が変わった。広報を希望する理由は、板野友美に会えると思っていたからに違いない。

父親が云々は、真の志望動機を悟られない為のカモフラージュに過ぎない。今時は一概に、世代では嗜好は決まらないのだ。

もちろん、サブスク画像の購入企業でしかない我々が、板野友美に会える可能性は限りなくゼロに近い。ただ、同時に私は嘘も言っていない。何せ、関係者としか言ってないのだから…

実際に彼がともちん推しなのか、まりこ様推しなのかはわからない。そんな事を面接で聞けるはずもない。とすれば、今の我が社が「みらい美容クリニック」さんに勝つには、これしかないのだ。そう、私は嘘は言っていない。タレントサブスクの仕組みを、彼に説明する義務はないのだから…



それにしても、ここまでタレントサブスクが浸透しているとは意外だった。このままでは、キタノ君の様な一般の学生にそのサービスが知れ渡るのは時間の問題だろう。

こうしてはいられない。
タレントを追加だ。費用はかかるが人材獲得のためならやむを得ない。

どれどれ、えーと…モー娘系もいるのか。
矢口真里、藤本美貴…

いや、流石に世代が…


上記は完全なフィクションだが、タレントサブスクが今後ますます普及していく事は、まず間違いない。

そして、タレント広告が乱立すれば、その効果は相対的に下落するだろう。つまり、集客だろうが採用だろうが、普及し始めてからでは遅いのだ…。

こうしてはいられない。

早速、資料請求だ。


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