2022年「エシカル・レスポンシブル消費」に見えるもの(前編)〜今、何が起きているのか?実践者たちの現在地〜
私たちImpact HUB Tokyoは「日常をどうレスポンシブルに生きるか」という問いに向き合うためにこの数年、数々の仮説検証を重ねてきました。
起業家の集まるコミュニティとコワーキングスペースとして10年間、社会へのインパクトや働くこと、そして日々の暮らしとの接点に関わってきましたが、そんな中で、日々の選択に自覚的になり、時には問いを立て、自由であることを大切にし、より人生を自分らしいものとして生きるためのキッカケとしてエシカル・レスポンシブル消費にまつわる取り組みに関心を持つようになりました。
今回の記事では、エシカル・レスポンシブル消費をテーマに活動や事業を行なっている人たちとと関わり始めて考えたことをまとめました。
“関わり”ながらの仮説検証
世の中でも「SDGs企業」や「エシカル消費」といった現象が増え始め、ブームやトレンドとまで呼ばれるようになりました。サステナブル男子やエシカル女子のような単語もチラホラと見られるようになり、1つのマーケティングとしてカテゴリー化しつつあります。
しかし、Impact HUB Tokyoチームが気になっていることとしては、表面的な取り組みやブランディングが目立ちすぎていること。そして、マーケティング戦略として単に高い値段設定で製品やサービスが売られる現象も増加していることに懐疑的になっています。
なぜならこの流れは「レスポンシブルであることを日常化していきたい」と考える私たちと逆行する動きのように思えるからです。
ではどうしたらより地に足のついた、日々の生活に落とし込みやすく、そして持続可能な製品やサービス、コミュニティを増やすことができるのか?
わたしたちは、様々な“関わり”を作り出しながら観察する、という仮説検証を行ってみました。
やったことは?
まず2年間、サーキュラー・エコノミー・プログラムを実施し、9人の起業家とオンラインで繋がりディスカッションを続けました。
それから、目黒の拠点やオンラインで、レスポンシブル・アトリエという特集イベントやトークセッションを実施し、循環型アパレルの事業を立ち上げた2人の起業家のストーリーや脳内の紆余曲折を深堀りしました。
レスポンシブル・マルシェというマーケットイベントを実施して、25組の出店者たちと接点を持ち、販売や出店を支援しました。また、レスポンシブル・ポップアップストアというアパレル系の起業家たちの出店イベントも実施し、4団体の販売や出店を支援しました。
その他、公開されていないクローズドなイベントも実施し、そこでも12人のミレニアル世代の実践者たちと深い対話をしています。
つまり、2年間で50組以上のエシカル・レスポンシブルビジネスや活動に関わる人々と関わりを重ねてきました。
また、それらのイベントに参加し「消費する側」になった人たちも含めると、400人以上の人たちと接点を持ったことになります。
どんな人たちと関わったの?
私たちが関わりを持ったのは、起業家育成プログラムで起業の伴走やメンタリングを行なった人々、キュレーションイベントやマルシェ、ポップアップストアでの出店や登壇を通して接点を持った人たち、そして日頃からImpact HUB Tokyoのコミュニティにおいて対話を重ねる機会を持った人々です。
彼らの事業・活動の幅はさまざまです。アパレルの大量生産や大量消費に疑問を持ち、循環型の製品を作る人、ヴィーガンやフードロス、フェアトレードなどの食べ物を取り扱う活動家。ゴミ問題や森林破壊の問題に取り組む団体や発展途上国の女性の貧困・雇用問題にアプローチする事業もあります。
また、アプリやオンラインのプラットフォームを使ってエシカル消費やヴィーガンの情報を発信したり、自らのエシカルな生活や活動を発信するインフルエンサーたちもいます。
それぞれの活動はビジネスとして軌道に乗っているものもあれば、これからビジネス化を目指すもの、個人活動や副業、ボランティアとして行なっているものなどさまざまな形態やフェーズ、目的を持っていました。
今、何が起きているのか?
その1:「セルフ」への強い意識
出会った人たちの中でかなりのボリュームを占めていたのが、マインドフルネスやウェルビーイング、健康にアプローチするタイプの活動を行なっている起業家や実践者でした。みな、自己や日々の暮らしを内省しており、活動の理由や目的を語る際の主語が「自分」であり、さまざまな自己変容を経験してきたストーリーを語ってくれます。
例えば、自身の健康問題や食生活、過去の体験などを根幹にしながら自己変容や暮らし方についてのアドバイスを発信したり、手作りのプロダクトを製作したり、情報発信を行なっています。
この素晴らしい変容をもたらす人たちは「セルフ」起点。
コロナ禍を経て「セルフ」へ意識が向かう人も多かったですが、こうした視点が新たに強く浮上したのを感じます。
その2:「セルフ」→「仕組み」へ、どう向かうか
「セルフ」起点の実践者たちは当事者としての意識が強く、自身の日々の生活に落とし込みながら活動しています。しかしながら、ビジネス化を狙うことを最初から念頭に置いている実践者と比べるとそのスピードや活動範囲、与えるインパクトの規模などは狭くなっています。
そしてそのために構造変革を狙ったり、チームを組成し計画的に活動に取り組むというスタンスは薄くなっています。
興味深いことに、それはこんな形で現れます。
SDGsやエシカル・レスポンシブル消費をテーマとする経済活動が増えてきて、メディアも取り上げ、盛り上がりを見せている現状を、喜ばしく思いつつも問題意識を持っている実践者たちが多くいました。
ブームによって興味や関心が激増する事態をはたに見ながら、この状況を「どう個人レベルの暮らしに落とし込んでいくかについては、悩ましい。」と語る方が結構いました。
私たちは「ビジネス化」だけに関心があり、ブームやトレンドに乗っかってどんどん拡張しようとする人よりも、この個人の感覚や日々の生活への落とし込み、当事者としての意識ときちんと向かい合うスタンスをなるべくサポートしたいと考えています。
一方で「ビジネス化」ではなく、それを「仕組み化」にしていけるようにするにはどうすればいいのかは、やはり考えないといけないとも思っています。「セルフ」から「仕組み」へ、です。
その3:横のつながりが「仕組み」へ向かわせる?
個々人の体験が原動力になってはじまっている事業が多いため、何を「エシカル・レスポンシブルと定義づけるか」という点もその幅は十人十色。一人一人とお話しながら、「ああ、これは一人一派なのかもしれない」と感じるほどでした。それはとても強い原動力になっていました。
ただその強さの裏側には、デメリットもあるようです。必ずしも実践者同士の横のつながりやコミュニティ内で共有されている学びや理論がある、というわけではなさそうということ。でも、小さなクラスターは多々存在し、価値観を共有しあっています。
もしかしたら「仕組み」へと昇華していくのが難しいのは、この実践者同士の横のつながりやコミュニティ内での共有が少なく、連帯として、あるいはコレクティブとして構造の変化などに向かうことが加速していないからかもしれないという印象を持ちました。
つい、Impact HUB Tokyoチームが仮説検証や分析をすると、「運動体として」「社会動態として」このブームやビジネスは、どんなインパクトを持ちうるのだろう?という主観が入ってしまいますが、上記のようなことを観察しています。
次回も引き続き、わたしたちの仮説検証から見えてきた考察を解説します。
⇨ 後編はこちら:
この記事を書いた人たち
執筆:Kody
編集:槌屋詩野