【HSCだった私が経験した緘黙】敏感さが生む課題と支援の必要性
はじめに:
HSC(Highly Sensitive Child /ひといちばい敏感な子)は、先天的に繊細な感受性を持つ子どもたちのこと。一方、緘黙(かんもく)とは、社交的な場面で話をすることができない状態のことを指します。
HSCや緘黙の子どもたちは、日常の些細な場面でどのような困難を抱えているのでしょうか?HSCだった私自身、園生活での小さな出来事が原因で緘黙を経験しました。
いずれの特徴を持つ子どもも、集団生活で困りごとを抱えているにも関わらず、その困りごとは目に見えにくいために見過ごされたり、性格の問題だとされることが多いと感じます。
本記事では、HSCと緘黙の特徴やその関係、そして支援方法について、私自身の経験を交えてお伝えします。
HSCとは
HSC(Highly Sensitive Child /ひといちばい敏感な子)とは、五感の鋭敏さだけでなく、心理的にも繊細で感受性が高いことが特徴です。特に、他者の感情に敏感で、社交的な場面で強い不安や緊張を感じることがよくあります。
例えば、私自身がHSCとして育った幼少期、他人の表情や言葉のニュアンスに敏感で、些細な言葉でも深く考え込み、必要以上に自分を責めることがありました。クラスで発言する場面では、周囲の反応が気になり声が出なくなるなど、園生活でのちょっとした出来事から自己肯定感が低下し、緘黙へと発展したこともあります。自分の言動による相手・周囲への影響を考えすぎてしまうようでした。
しかし、HSCの特徴は決して欠点ではなく、他者への共感能力や洞察力が高いため、その感受性を強みに変えることができます。AIが進化した次世代ではより、その独創的で創造性のある面など個性を発揮して活躍していくことが期待できます。
緘黙とは
私が経験した場面緘黙(選択性緘黙)は、特定の場面で話をすることができない状態のことを指します。症状が起こる原因は様々ですが、環境の変化・遺伝の他、不安や恐怖・緊張なども引き金になります。
緘黙の子どもたちは、ただ恥ずかしがり屋だと片付けられてしまうことも多いのですが、私が幼少期に園生活で声が出なくなったのは、自分の気持ちを伝えたいと思っても身体が動かなかったからでした。後になって、場面緘黙は単なる性格の問題ではなく、脳がストレスに対して生物学的に反応してしまうことが原因(※1)だと知り、救われた気持ちになりました。
このように緘黙は、周りの人たちから理解されにくく、孤独感を感じることも多いです。この症状がより広く認知され、周囲の気付きと支援に繋がっていくことを願います。
(※どのような生活場面においても話せない場合は、『全緘黙』と呼びます。この記事での緘黙は、『場面緘黙』について記しています。)
HSCと緘黙の関係
HSCは、特定の場面での失敗や他人の評価を必要以上に気にする傾向があり、それが緘黙の原因の一つとなる場合があります。私自身、幼少期に園生活で苦手な活動を他の子どもと同じようにできなかったことがきっかけで、強い自信喪失を経験し、結果として場面緘黙に陥りました。
敏感さがあるとどうしても社交的な場面で、緊張しやすく、慎重にもなりやすいために話しにくくなるのです。同様に緘黙の子どもたちも周りからの刺激に敏感であることが多く、HSCの特徴と重なります。
HSCと緘黙は、相互に影響し合うことがあるため、教育現場では両方の特徴を理解した適切な支援が必要。そのためには、その特徴や困りごとについて、もっと認知度を高める必要があります。
HSCと緘黙の支援方法
HSCや緘黙の子どもたちは、集団生活でどのような課題を抱えているのでしょうか?私自身の子ども時代の経験と、息子の付き添い経験から、これらの特性は表面上はわかりにくいために教育現場で見過ごされやすいことを実感しました。次にHSCと緘黙の特徴や支援方法について、私の経験を交えながらお伝えします。
【学校側ができる支援】
場面緘黙の子どもたちは、クラスでの発表や大きな声を出すことを強要されると、症状が悪化するリスクがあります。私自身も、園生活で他の子どもたちと同じように発表することを求められた結果、自信を失い、ますます声を出せなくなりました。
先生方が緘黙について理解を深め、無理強いを避けるだけでなく、以下のような代替方法を提案してくださると、子どもたちが安心して参加できる環境が整います。
• 発表内容を紙に書いて提出する
• 動画や音声録音での発表
• グループでの共同発表など、他の子どもたちと役割を分担する
緘黙の子どもたちにとって、声を出すことを強要されるのではなく、自分に合った方法で表現できる環境が整うことは、安心感と自信を取り戻す大きな助けになります。教育現場全体で、このような多様性を受け入れる動きが広がることを願っています。
【カウンセリングや支援の必要性は?】
HSCや緘黙の子どもたちは、自信を失いやすい場面も多いために、状況により心理的な支援が大きな助けになります。
しかし、カウンセリングや心理支援を子ども自身が望まない場合には、そのタイミングは慎重な判断をお勧めします。敏感さゆえにどうしても負担に感じる部分が大きいので、無理をさせる必要はないように感じます。(私自身は、大ごとにしたくないという気持ちが大きかったです。)
まずは家庭で子どもたちに対して理解を示し、彼らの感情に寄り添うことが、何より子どもに大きな安心感を与え、心の安定に繋がります。
また、不安に対しては、丁寧な見通しを立てることも有効です。
【家庭でできること】
家庭でできることとしては、子どもの敏感さに気付いたら、子どもの言動を否定しないことが大切だと感じます。無理に場慣れさせることを急かすと、結果、うまくいかない場合に自己肯定感の低下に繋がりかねません。
そのままの自分であることを肯定され、自分の好きや得意を見守られることで自身のペースで自分らしさを発揮していくことができるはずです。
まとめ
HSCと緘黙について。これら、環境調整や心理支援、学校の取り組み、家庭でのサポートなど、さまざまな方法を組み合わせることで、子どもたちが安心して学び、成長できる環境へと近づけることができます。
HSCの心理的敏感さは、一見すると課題が多いように感じられますが、実際には他者への共感能力が高く、深い人間関係を築くための重要な特性でもあります。
また教育現場・社会全体でHSCや緘黙についての理解を深めることは、子どもたちの未来に大きな影響を与えます。本記事が、支援の必要性を感じている親御さんや教育関係者にとって、一つのヒントとなれば幸いです。
※1
場面緘黙で声が出ない理由には、生物学的な要因も関係していることをご存じでしょうか?例えば、脳内の『扁桃体』が過剰に反応することで、声を出す神経や筋肉が抑制される場合があります。このテーマについては、こちらの記事で詳しく掘り下げています、ぜひお読みください。
【参考文献】
◾️ Baker, E. A. (2017).
◾️ Henderson, H. A., & Mundy, P. C. (2014)
※ 1
神経科学の研究では、場面緘黙の子どもたちの脳のMRIスキャンで、「扁桃体」の過剰活動が確認された例もあります(Kagan et al., 2001)。
※日本語でのHSCや緘黙に関する書籍 : 「ささいなことにもすぐに動揺してしまうあなたへ」
Photo by Michał Parzuchowski for Unsplash.