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『ドライブイン蒲生』 伊藤たかみ

ドライブイン蒲生
伊藤たかみ/河出書房新社

客も来ないさびれたドライブインを経営する父。姉は父を嫌い、ヤンキーになる。だが父の死後、姉弟は自分たちの中にも蒲生家の血が流れていることに気づき……ハンパ者一家を描く。

河出書房新社

伊藤たかみ。家族・夫婦・兄弟など親族関係を描くことが多い。「なんか」気になる作家の一人である。90年代にデビューした作家の作品を「J文学」なんて呼んだりしたが、その一人でもある(はずだ)。伊藤たかみの作品には、時代が色濃く出ているように思う。

例えば、タイトルにもなっている「ドライブイン」という言葉。分からなかったので調べてみると、今で言うパーキングエリア的な、道の駅的なそんな意味合いだそう。他にも子供にタバコをおつかいさせたり、「トリップ」という言葉が出てきたり、現代の家庭では見られない風景が広がっている。「少し前」の日本(平成初期あたり)という感じがして自分には新鮮だった。その頃を生きてきた人にとっては懐かしいと感じるのではないだろうか。

父は寂れたドライブインを経営していたが、やがて仕事に行かなくなる。そんな父のことを姉は嫌った。姉はどんどん悪い奴らとつるむようになり、ヤンキーになった。中学生からタバコを吸う、風邪シロップを一気に飲む、刺青を入れる。まさにヤンキーという風貌へと変わっていく。

そんな姉の武器が父のアイスピックだった。「ガモ」と名前が彫られている。姉は父のことが嫌いなくせに、嫌いになりきれなかったのだと思う。父の死に際になって久しぶりに会話したり、父の死に涙したり。

血縁や家族について、現代ではあまり重視されない。むしろ、家族の絆なんてないと言い切る作風が主流になってきている(毒親、親ガチャなんて言葉もありますしね)。でも『ドライブイン蒲生』を読むと、血で繋がっているとはどういうことだろうと一度立ち止まりたくなる。同じ血が体に流れているという事実はどうしても無視しきれない、という視点から描いた家族小説だったと思う。

伊藤たかみの小説は読後の充実感がある。それまで冷たかった分、温かさを感じて満たされるのだ。特に最後二段落の文章をうっとりしながら読み終えた。


収録作についても少し触れる。
まず『無花果カレーライス』は、同著である「ミカ!」(「ミカ×ミカ!」だったかも?)を思い出した。カレーライスの隠し味って良いよね。この作品では、被害者は加害者になり得るし、加害者も被害者になり得るという点を深掘りしていて、自分の身の振り方を考えさせられる作品だった。いつだって被害者面していないか?と。

そして『ジャトーミン』は、自分にはあまり刺さらなかった。それでもジャトーミンが吸収される、とか、ジャトーミンを欲するみたいな文章を読んで、やっぱり家族……というか一緒に暮らしてきた人の影響は受けるものだよなと思った。

三作の中では表題作が一番好きだった。

(余談)
本の虫退治の件ですが、本の天日干しを実行中。しばらく図書館の本を読んでいるので、いつもは選ばないジャンルにも挑戦したい。

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