『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 / 栗原ちひろ』(集英社オレンジ文庫)を読んで。
あけましておめでとうございます。年末年始は家の中があれやこれやと忙しく、そろそろ日常に戻らねばとの願いを込めまして、2021年の読書感想文を書き始めたいと思います。本年もよろしくお願いします。
さて、新年一発目は、栗原ちひろ先生著の『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』(集英社オレンジ文庫) の感想を綴ってまいります。
2021年最初の一冊目を、どれにするかと迷うべきなのかなぁと思いましたが昨年から読みかけだったこちらの本にしました。思いおこせば栗原ちひろさんの『悪魔交渉人』シリーズ ( 富士見L文庫 ) から、読書感想文 note を始めたので、縁もあるのかなと思ったり。
―― 注意 ――
・感想を書くにあたりこの記事内では作品の内容に関わる #ネタバレ をある程度しています。事前になにも知りたくない方はご注意ください。
・『有閑貴族エリオット』シリーズは現在2巻まで発売しておりますが、当記事は1巻のみの感想文です。
・タイトルが長いので、記事内で『有閑貴族エリオット』と略させていただいてる箇所がございます。
◆有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 / 栗原ちひろ
(あらすじ)
19世紀末、ヴィクトリア朝ロンドン―。怪奇あるところに世にも美しき幽霊男爵あり。社交界で浮き名を流し、風雅と博物学を愛する有閑貴族エリオットには、もう一つの通り名があった。それは幽霊男爵―。沈黙の交霊会、ミイラの呪い、天井桟敷の天使…。オカルト事件に目が無いエリオットの元に舞い込む不可解な事件。だが、「謎」から闇を拭うと隠された想いと切ない事情が見えてくる。幽霊男爵が美貌の助手コニーを従え、インチキ霊能者に挑む!
◇作者は栗原ちひろさん
第3回角川ビーンズ小説大賞《優秀賞》受賞。2005年『オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う』(KADOKAWA)でデビュー。「悪魔交渉人」シリーズ(KADOKAWA)、「死神執事のカーテンコール」シリーズ(小学館)など著書多数。最近欲しいものは、書庫と暖炉。バーの二階に住みたい。
――折り返しの作者紹介より引用――
『悪魔交渉人』に続き、読ませていただくのは2シリーズ目です。『死神執事のカーテンコール』( 小学館文庫キャラブン! ) 買ってあったりなどしますが、次はこの2巻目を先に読む予定です。
◇装画はカズアキさん
キャラクター文芸を嗜む人が必ずどこかで見たことある絵のイラストレーターのカズアキさん( @kazuaki_info )です。キラキラした瞳が印象的。
『筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。』(宝島者文庫)『一曲処方します。~長閑春彦の謎解きカルテ~』(TO文庫) などなど。恐らく、キャラクター文芸創成期から表紙を描かれていた方なので、目に留まる機会も多いイラストレーターさんではないかな。
この場をお借りしてオレンジ文庫にわたしは言いたい。『ご旅行はあの世まで?』の続きはどうなってるの?(余談失礼いたしました。
◇『有閑貴族エリオット』最大の魅力を、なぜ声を大にし宣伝しないのか
宣伝と、そして断言いたします!
『有閑貴族エリオット』最大の魅力は、男二人のバディモノであるところです!世界に向かって叫びたい!『有閑貴族エリオット』最大の魅力は、男二人のバディモノです!
わたしのように、『恋愛(BL)じゃないやつで、男二人のクソデカ感情が読みたい』層って、もう結構な市場規模があると思うんですよ。わたしも見つけ次第、頑張って買ってますし。
それが、『有閑貴族エリオット』帯からも表紙からも「男二人のバディモノ」であることが読み取れません。なんてことだ!?
「美貌の助手」と紹介されているコニーも、この表現では男だか女だかわかりません。美少年って言ってくれたらわかりやすいのだけど。イケメン貴族の従者が美少年なんて……美少年なんて……、もっとそこを宣伝するべきでは!?と、思ってしまうのです。
『宝石商リチャード氏の謎鑑定』を出してるオレンジ文庫ならわかってくれると願い続けて五十余年 ( 盛ってます )。やっと、わかってくれた予感がするのが、こちらの『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』だったりするわけです。シリーズの今後にぜひぜひ期待しましょう。
◇幽霊男爵エリオット × 助手(従者)美少年コニー
注意:『×』の表記にBL的な意図はありません。字面が締まるので使ってます。(って書かなくても別にいいのかな……ちょっと書いときます)
さて、幽霊男爵エリオットの話に戻ります。どちらも美貌であることは、キャラクター文芸ではお決まりに近いので省略したい気持ちもありますが、1巻の表紙に描かれているのがエリオットで、2巻の表紙がコニーです。どうでしょう、この麗しさ。
表紙からだけではなく、小説内からも19世紀末ロンドンの雰囲気を存分に感じましょう。日本の明治後期~大正時代と同じく「束の間」であり「激動」でもあった時代です。
エリオットは死者が視えると『幽霊男爵』として社交界にも有名な美青年男爵。一言で言うと幽霊好きの変態です。
コニーはサーカス団で奴隷扱いされていたところをエリオットに救われてからエリオットの元で助手(ボーイ)として働いています。ボーイは下っ端使用人ってとこかな。エリオットが何処に行くにも連れまわしている、ちょっとワケあり美少年です。女装や手品やちょっとした術も華麗にこなしてくれちゃいます。
大事なことだから言っておきます。美少年従者コニーは「僕はエリオットさまの人形です」を自称してるんだ……。
もうそこだけ宣伝してくれたら、5億冊売れるのにね?と思ってたら2巻の帯にそう書いてあった! これは5億冊売れますね。
◇美少年助手コニーの描写を紹介させて
「――(省略)――。僕は『見る』ことしかできないからね」
エリオットは優しく言い、目の下に指を添えて笑ってみせる。
「見ることしかなんておっしゃらないでください。僕は、本当にたまにしか見えない」
はにかむようにまつげを伏せて返すコニーは、まさに美少女そのものだった。
しかもとびきりの美少女だ。蜜色にとろりと光るハニーブロンドは生まれながらにし天使のようなウェーブがかかっており、少し大きすぎるほどの目はミステリアスなグレーグリーンで、金糸のようなまつげにぐるりと囲まれている。年のころは十二、三にも見えるが、実際は十五歳くらいとエリオットは想像していた。
(『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』P21 より引用)
どうよ、すごい描写でしょう。どんだけなのよ、って思うでしょ。
しかもエリオットの視点です。勘の鋭い方なんらかを感じられるんじゃないでしょうか。これは一章のはじめのほうにあるのですが、四章はもっとすごいですよ(宣伝)
◇意味深な序章
キャラ萌えはとりあえず、置いておいて。文章のお話です。
栗原ちひろさんの様式美なのでしょうか。『悪魔交渉人』にもあった、意味深な序章が、この『有閑貴族エリオット』にもあります。
いかんせん初っ端1ページ目。一体なんのことやら何もわからない状態で読ませられる文章。何もわからなくても、これはなにかありそうだぞ、と意味深な匂いだけは感じる。
答え合わせは、一章「交霊会と消えた婚約指輪の謎」にございます。序章の一行一行を読み返し、なるほどそういうことか、ときっと必ず思うはずです。わたしはなりました。
◇少し戻って読みたくなる仕掛けが面白い
序章だけではありません。すべての章において、序章と同じような、読者向けのミステリーが隠されています。
エリオットはやっかいなことに、死者が生きている人間と同じように見えてしまいます。一応、生きてる人間ができないことだったり、死者の思念のようなものによって服装が突然変わったりなどで見分けることができたりしますが。
大部分が、エリオットの三人称一元視点で語られる今作には、作品内にエリオットにしか見えない状況の幽霊が隠されているんです。これが、読者向けミステリーです。
わたしはそのミステリーを見抜けなかったので、誰が幽霊なのだかをわかってから読み返しました。すると、「あれ?この人はコニーとは会話してないぞ」「ヴィクター(エリオットの旧知の友)はこの人には顔を向けていないようだぞ」「……ふむふむ。こいつ確かに幽霊だったんだな」となるわけです。これがちょっと面白い仕掛けでした。
◇コニーが厄介
厄介は、性格の部分です。性格が悪いとかのそれじゃなくて、自分を「人形」だと自称しているところが、エリオットに言わせると、多分厄介。
自分の従者を務めさせる中でコニーの考えを正したい、いずれ自分の人生(未来)に希望を抱ける子になってほしいとエリオットは願っていると思います(予想)。詳しくは読んでいただければと思いますが。自傷癖があるともそういうわけでもなく、エリオットのためにだったらいくらでも命を投げ捨てられるという、そういう厄介さです。危ういですよね。
◇厄介だ、けれど……?
コニーはそんなに簡単に自分の命を粗末にしちゃうのかなぁ? と思っていたのですが……、四章の最後、エリオットとコニーが一緒にいる理由を読ませられてそうでもなさそうだなと思うことになりました。
四章はコニーの視点で物語が綴られます。エリオットがお忍び旅行に行くということで、コニーや他の使用人たちに一週間の休暇を言い渡します。屋敷を空けるということで、実家のないコニーは一人でエリオットの用意した下宿に泊まります。すると、コニーは一人の休暇をうまくやる(卒なくこなす)んです。エリオットが望むような、または他の人たちにも角が立たないような対応をする。たとえば笑って見せたり、模範解答をするりと答えたり。孤児でもコニーは頭もよくて。こういう細かなところで、これは簡単に死のうとする人間のやることではないなと思いました。よくある自暴自棄さがコニーにはないようです。
エリオットのためになら、と使用用途をエリオットに限定される、人形なのでしょう。
だからなのか、エリオットが抱き締めたり、膝枕してるとめっちゃ怒ってくるわけですよ。「人形相手にこんなことなさらないでください!」って。
やだー、かわいい。こんなこと言われたら、いくらでもなさっちゃうし、現になさっちゃってるエリオット様だと思うんだけどなぁ。
◇エリオットとコニーが共にいる理由
四章ではコニーがエリオットのお付きになった経緯が記されています。奴隷のように働かされ、人形として育てられていたコニーが、どうやってエリオットと一緒にいるようになったのか。
詳しくは小説を読んでほしいので省きたい……けど、こちら一応の感想文なのでちょっと書かせていただきます。
コニーがエリオットに助けられたかたちで始まった関係だけれど、エリオットにはコニーが必要でした。コニーの視点なので、コニーが『エリオットさまは、こう思ってるだろう』というものですが。でも、エリオットは、コニーのことを「誰よりも私を理解している」と言いふらしてるので、コニーの発言だとしても、きっとエリオットの真実でしょう。
エリオットがコニーと一緒にいる理由。「そういうことか」と納得しました。コニーと同じく、エリオットも厄介、だったのかな。
エリオットはコニーを助けた瞬間に、そうだと気付いていたのかな。1巻だけだと、ちょっとわからない。
今のところわかっていることは、サーカス団で働いていた可哀想な子に同情して、コニーをサーカス団から引き抜いたということです。かなり序盤でエリオット自身が、同情だと明かしてます。
◇エリオットがコニーに向けるそれが、同情だとしても
だとしても。同情も悪いだけじゃないと思う。乱発はよくないけど。同情でも情は情です。人間を動かすのに、情って結構でっかい起因。きれいなものだけが情だとは限らない。きれいも汚いものもあって、人間だと思うから。(……何が言いたいんだわたしは)
エリオットが美貌の塊だろうと、人間であることには変わりなくて、案外ちょっと脆かったり汚いところがあったほうがキャラクターとして愛せるかもしれないなぁと思います。
死者が見えるとしても、人間味みたいなところは全然あることにわたしは安心のようなものを感じてます。幽霊の噂をかぎつけると少年のようにワクワクしてる。エリオットはいつまでも、このままでいてほしいなと思いました。
◇「君のこの手が、僕を救い続けている」
読み直すと、エリオットがちょくちょくコニーの手を掴んでいるんです。そういう、理由があったんだなぁと、これはミステリーじゃないと思うけど、読み返すと、そんなふうに感じました。全部、意味があったんだ、と。
◇皮肉を利せられる文章が匠
ワッとなる文章がありました。引用して具体的に紹介します。
彼は今日も非の打ち所のない体を非の打ち所のない三つ揃えの中に包み、広大とは言い難い書斎に所狭しと配置した骨たちに手を差し伸べて演説を始める。
(『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』P66 より引用 )
落語みたいな……、話術巧みな人がやるやつです。外連味ともいうのかな、真正面から聞くとちょっと鼻につく表現じゃないかなと思うようなものをスパイスのようにぶっこんでくる、そんな文章。
これ、力のない作家がやらないと外すやつ(悪口じゃないよう)だと思ってるんだけど、栗原ちひろさんはこれが巧み。
『有閑貴族エリオット』はシリアスなシーンもある作品ですが、そのあたりは臨機応変になされてます。ちゃんとこういう文章を使う場所(シーン)を選んでくれているので、ただただ面白いだけ。死者や幽霊、事件などと下手を打つと重々しくなってしまいがちの作品を明るく楽しい方向にと引っ張り上げる効果もあるかな。知らんけど。
◇二巻は、発売したばっかです!
熱いうちに読むなら今です!わたしはすぐ読みます!
読みたいので以上、感想文を終わります!
◇外部リンク
・集英社オレンジ文庫公式(有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿)
・栗原 ちひろ( @c_kurihara )
・カズアキ ( @kazuaki_info )
◆後記
以下、読まなくていいところです。
ネタバレる部分が自分で面白かったので、ネタバレをしないように感想を書こうとしたけど、なにがなんだかになっちゃって大変だった。ネタバレを考慮しながらの感想文は難しい。
しかしほんとにバディモノだって宣伝してほしい!2巻はされてるっぽい。期待。
1巻の終わりでコニーとエリオットの出会いを書いてくれていたので、(あまたある1巻で続きでなくなっちゃう他の作品と比べて)消化不良は少なそうだけれど、続編出てくれてよかった。
コニーは人形人形言ってるけど、そういう意味はないので安心して読んでほ
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