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速読は実在するのか? ①白鯨による訓練

本を読む人なら、あるいはウェブでテキストを読む人でも、誰もが一度は望むことといえば"速読"の習得ではないでしょうか。

ずいぶん前にネットで見た情報によると、速読とは「ページをパッと見ていくことで(写真に撮るように)記憶していき、慣れるとパラパラめくっていくだけで何が書いてあったかわかるようになる」という感じで説明されていました。が……

無理無理! 本当に、そんなことできる人がいるのでしょうか?

ええ、本を読む速度に個人差があるのはわかりますよ。

ぼくの場合は頭のなかで声に出して再現する感じ(=脳内音読)で読むので、読書のスピードは日常会話と大差ありません。そのうえ読みながら"別の考え"が浮かんできちゃうこともあり、それも頭のなかで独り言のように話しています。もちろん脳内独り言をしている間、本を読み進められるわけがありません。本を読むだけで会議になってしまうので、総じてモーレツな時間がかかるのです。

一方、脳内音読をせずに読む人もいるそうですね。たしかにかなり短時間で本を読む人はいて、しかもその内容をきちんと把握しているように見えます。でも、そういう人たちに「速読できるのか」と問うと、「できない」「ありえない」という答えが返ってきます。ぼくからすればほとんどの人が速読できているようなものですが、「パラパラめくって、ハイ!」と済ませる"脳プリント型の速読"と違うのはわかります。

というわけで「速読できるよ」という人に会ったことがないのと、もし会えたとしてもなんだか嬉しくなさそうな予感がするため、ぼくは速読の実在を信じていません。ただ、もとが遅いので今より速くすることくらいはできそう――と思い、いろいろやってみたのです。

『白鯨』による訓練

『白鯨』という小説(ハーマン・メルヴィル著)があります。知らない人もどこかでその名を聞いたことがある「エイハブ船長」が、伝説の巨大白鯨・Moby-Dickに会いたい……でも会えない;; と頭がおかしくなっていくJPOP恋愛的物語です。まあ最後の方はウソですけど、念のためのネタバレ回避ですLOVE。

で、その『白鯨』。名作として語り継がれ今でも本屋さんで買えるのですが、1851年の作品ということで現代の作品のお作法から遠く、かなり読みにくいんです。しかも頻繁にクジラについての蘊蓄(うんちく)が披露されていて長い長い、超長い! 内容的にもストーリーの組み立てが良いというよりは「迫真の描写」みたいな部分が評価されているんです。

つまり長話のおじさんが、頻繁に脱線しながら自慢話を披露しつつ、やたら細かいディテールにこだわって感情豊かに語り続けるのをじっと聞き続けなければいけないイメージです。ありがたいお話なんですけど^^

「絶対読みたくない!」と思う人がほとんどだと思いますが、まあちょっと待ってください。長話おじさんはみなさんの周りにもいると思いますが、だからこそぼくらはそれをスルーする方法を知っているじゃないですか。

余談だとわかるところは意識を逸らして「晩御飯なにがいいかな?」と考えたり、聞いておくべきだったことを聞き逃したと気付いたら「あれがよくわからなくて……」と言ってもう一度話させたり。同じことを読書でやれば、ダラダラ長い本を素早く読めるのではないか? ということです。

白鯨の場合、数々の蘊蓄はもちろん、集った船員たちの風貌や、出航前の陸上の様子はほとんどどうでもいい! とすぐにわかります。これがミステリーであれば、船員のひとりが「肩に蝶のアザを持つ男」であることが重要なヒントになっているおそれがありますが、そういう場合は普通、少し"しつこく"することで強調されるものです。とはいえ白鯨は、ヒントでもないのにしつこく語られ読みにくいので、「これはミステリーではない!」と意識しておくことは必要でした。

一方で、エイハブ船長と周囲の人々の感情の動きは(一応)読みどころなのでしっかり追っていくべきでしょう。逆にミステリーだと感情面は記号化されることが多いので、読み飛ばし対象になりますが。

「きみが手にしている、白く厚い腹を持つその巨体こそが本当の白鯨なのだ」というオチ(嘘)

というわけで、分厚い文庫・上下巻2冊を読み切るころには、なんとなく読み飛ばしてもかまわない部分がわかるようになってきた気がします。実際、白鯨を読み終えて以降は、少し気軽に本を読めるようになったので読書量が増えました。

"読み飛ばしても良い部分"に気付きやすくなることは、速読のためだけでなく、文章を書くうえでも役立ちそうです。自分で書きながら「ここ、読み飛ばされそうだな~」とわかってしまいますからね。

さて、速読に近づくための努力はさらに続きますが、今回はこのあたりにしておきましょうか。この話題で、ダラダラ長引かせるのはあまりにも非道というものですからね。

(つづく)


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