レビュー『Archaeology of the Future』田根剛
なぜだか気になって、思わず手にとってしまう本というものが存在します。
本書もそのうちの一冊。
パリと日本を拠点に活躍する、建築家・田根剛の初の作品集です。
建築を通じて、「Archaeology of the Future(未来の記憶)」を描き出そうとする過程が浮き彫りに。
前半は思考のプロセスに焦点があてられます。
コンセプトスケッチや、土地の記憶とも呼べる「鍵」となる写真群、模型、コンセプトモデルやイメージボード。
後半には実際の建築の写真(実現されていないものはイメージ画像)が載っており、最後に建築コンペに提出したであろう図面。
各作品について解説しているので、著者の思考の過程を垣間見ることができます。
『Archaeology of the Future』というタイトルは、著者の言葉を借りるならば、「場所の記憶から考える未来の建築」のこと。
どの作品も、その土地に根付く文化や歴史を丹念に拾い、その上で圧倒的なスケールのイメージやヴィジョンで提示しており、「記憶は過去のものではなく、未来を作る原動力」という著者の思いが伝わってきます。
なかでも一番心打たれたのは、「エストニア国立博物館」。
かつてはソビエト連邦の軍用地として占拠された土地を、国立博物館にすることに。
著者が描いたのは、「負の遺産である旧ソ連の軍用滑走路を抹消するのではなく、エストニア民族の記憶を継承するように、博物館を滑走路の延長線として接続」すること。
ゆっくりと大地が隆起して空へと向かっていくさまは、まさに「未来の建築」でした。
「エストニア国立博物館」以外にも、最近の「Todoroki House in Valley」ほか、主要17作品を網羅。
壮大なコンセプト本で、感性を刺激する一冊です。
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