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レビュー『森ではたらく! 27人の27の仕事』

都市で生活していると、なかなか想像がつきにく森での仕事。

本書を読めば、森での仕事のイメージがガラッと変わるはず。

あまりにも多様で、豊かな暮らしが存在していることに驚かされます。

27人が森で働く姿と、そこではたらくまでの歴史や原体験がつづられており、森や山が好きな人だけでなく、はたらくことに悩んでいる人や、キャリアに迷っているひとに、ぜひ読んでほしい一冊。

個人的に面白いと思った仕事を挙げます。

まずは、蜂獲り師の熱田安武さん、熱田尚子さんのご夫婦。

麻酔や煙幕を使わない、生堀りという伝統的な手法で、地中にあるオオスズメバチの巣を採取。

その巣にいる幼虫をとり、料理店や個人に出荷するお仕事をしています。

安武さんの父も蜂追いをしていたようで、安武さんは4歳の頃からそのお父さんに連れられていたとのこと。

蜂の幼虫は、食べることができるというのも驚きですが、幼虫とりが仕事になることにも驚かされました。

そして、「とことん真剣に気持ちを注ぐことで知識や知恵をつけると、四季折々の自然の恵みを必要なときに必要な分だけ手に入れられる。」という安武さん言葉に感銘をうけました。

次は「森のようちえん」の運営者、西村早栄子さん。

本書を手に取るまで、「森のようちえん」なるものを知らなかったのですが、もともとは50年代にデンマークで始まりました。

1人の母親が「わが子を森で育てたい」と、近所の子供たちと一緒に森に通いだしたのが始まりと言われているそう。

その活動は周辺国にも広がり、ドイツで爆発的に広がり、日本でも90年台に活動が紹介されてからすこしずつ広まることに。

現在は200に近い園が活動しているとのこと。

小さいころから森の中で教育を受けれるなんて、素敵な考えだなと思いました。

最後は、山伏でもあり、山菜・キノコ採集者の成瀬正憲さん。

「採集に横たわる暗黙知というべきもの。自然への働きかけに底流する倫理と呼べるもの。それが僕には大切に思えた。けれでも、いたるところでそれは経済性とわかりやすさの狭間に消え去ろうとしていた。」と語り、山の幸は無限に湧き出るように産まれているが、それが「仕事」になるどうかというとほぼ不可能という現実がつらい、とも語っています。

しかし著者は、他の仕事と組み合わせて年間の生計をたてることができるとも言い、実にさまざまな仕事を手がけています。

例を挙げると、山伏修行の運営、出羽三山精進料理プロジェクトの食文化事業、アトツギ編集室の出版・展覧会・ツアー事業、床内地域の食と観光の商品開発、月山山麓の手仕事の制作・流通、ダンス作品の制作・演出・出演、地域文化の調査研究。

どの仕事も、「受け取りきれないものを、それでも受け取って、次に渡そうとしている」ところに共通点があると、著者は語っています。

自然の中で生きていくたくましさと、自分の興味に忠実に従うことの大切さを教えてくれます。

今回紹介した三つの仕事以外にも、多彩な仕事があって驚かされます。

以下、本書に掲載されている人たちの職業一覧。

森を写す人 | 林業家、写真家足立成亮(out woods)
森を運ぶ人 | 材木屋熊谷有記(山一木材 KITOKURAS)
森を挽く人 | 製材屋田口房国(山共)
森で染める人 | 染織家鈴木菜々子(ソメヤスズキ)
森を鳴らす人 | カホンプロジェクト代表山崎正夫(SHARE WOODS)
森で狩る人 | 猟師永吉剛(猪鹿庁)
森を伐る人 | 林業ベンチャー経営者久米歩(ソマウッド)
森に棲む人 | 蜂獲り師、野遊び案内人熱田安武・尚子(あつたや)
森で迎える人 | 食堂・喫茶オーナー東達也(食堂・喫茶 瀞ホテル)
森で採る人 | 山伏、山菜・キノコ採集者成瀬正憲(日知舎)
森を描く人: 林業というナリワイを描いて、見えてきたこと
森を書く人 | 作家三浦しをん(『神去なあなあ日常』著者)
森を撮る人 | 映画監督矢口史靖(『WOODJOB!』監督)
森を届ける人 | 国産材コーディネーター川畑理子(greenMom)
森で癒す人 | 森林セラピスト小野なぎさ(グリーンドック)
森で建てる人 | 建築家六車誠二(六車工務店)
森を継ぐ人 | 山林経営者緒方万貴(マルマタ林業)
森を香らせる人 | 森林組合職員、樹木精油生産者田邊大輔・真理恵(下川町森林組合、フプの森)
森で作る人 | 家具職人大島正幸(木工房ようび)
森で灯す人 | 林業家(木質バイオマス事業)松田昇(松田林業)
森を伝える人 | 公務員(林業職)イシカワ晴子(静岡県庁)
森で育てる人 | 森のようちえん運営者西村早栄子(智頭町森のようちえんまるたんぼう)
森に通う人 | 週末林業家堤清香(林業女子会@東京)
森を探る人 | 大学院生(環境経済学)井上博成(京都大学大学院)

それぞれの方の経歴をみると、岡山県の西粟倉町にあるベンチャースクールを経由している人が多い印象を受けました。

自分が想像もできない林業やその周辺の世界を、この本によって垣間見ることができました。

そして、その世界に関わっている人たちの仕事への真摯な姿勢や、自然と森を愛する心意気に感動しました。

鈴木菜々子さんの「少しでも気を抜くと、私たちは自然の循環する輪から放り出されてしまう。知らず知らずのうちに、その輪を断ち切っているかもしれない。」という言葉が胸に響いています。



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